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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
821/823

早朝のデート

 濡れた黒髪の青年がこっちを見て笑った。

 紹介された家人の中にはいなかった気もするけれど顔立ち的に近い身内の気がした。よく見ればだらりと着崩した服も濡れているようだった。

「風邪をひきますよ」

 おそらくすぐに乾くだろうけど、あまり良いとは思えなく声をかけた。無雑作に手を振られ近くにも寄れない。

「無縁ゆえ気に留めるでない」

 朝陽すら覗かない暗い時間。夜のうちだけどもうじきあける朝に近い時間。

 ふいにぽいと投げ渡されたのは炭酸のペットボトルが二本。二本?

「片方はくれてやる」

 なんとなく蓋を開けて片方を差し出せば慣れた様子で回収し口をつけている。開けさせられた?

「ありがとうございます?」

 どこか不条理を感じつつも謝礼を口にすればうむと流された。

 気がつけばペットボトル一本を残していなかった。


「え、不審者?」

 幼児(ミコト)を抱いた鎮が嫌そうにそちら方面を見る。幼い子供たちをみてる分少し敏感なのだろう。まぁわかるし。

「そんな気はしなかったんだけどね」

「じゃあ、大丈夫だわ」

 ミアが楽しそうにもらった炭酸飲料のボトルを見ている。


「みっちゃんはね、ジャンクフードとか大好きなの。あとで買い物に行きたいからお付き合いしてくれるかしら?」

 買い足しておかなきゃと楽しそうなミアに『みっちゃん』に嫉妬しそうだ。

「鎮くんは知らないようだったけど?」

「んー、芹ちゃんもみっちゃんには会ってないみたいだし、しず兄さんも会ってないんじゃないかなぁ。隆維兄さんは知ってそうだけど、秘密主義だし、ほんとはみっちゃんが『内緒』って口止めしてるんだと思うの。でも、着てるの父さんの服だし、大丈夫よ」

 ふいに来る親戚のようなものだとミアは笑ってる。

「小さな頃からかまってくれた人なの」

 彼に名を呼ばれるのが好きなのだとミアは海を眺めている。

「ミアは、俺のお嫁さんになるんだろう?」

 他の男に『ミア』なんて呼んで欲しくない。

「レンくん?」

「ん。少しだけヤキモチ」

 嘘だ。少しじゃない。

 ミアが楽しそうにしているのは嬉しいのにはじめてみせるその姿に苛立ちも募る。はじめて会った日から今まで崩れることのなかった印象が崩れていく。周りの期待に追われているわけでなく、自然に笑って時々わがままも言って。いつも笑顔で一歩引いた姿とはかなり違って。

「ヤキモチ?」

 わかっていない表情で見上げられてその額にキスを落とす。

「ミアを、独り占めしたいなと思ってね」

 言ってから周囲を見回す。だいたいそろそろ涼維あたりが妨害しに来る頃なんだが、良かった。今日はこない。油断はできないけど。

「レンくんは他に気を散らしてもいいのにミアはダメなの?」

 頬を染めて睨まれる。

 謝ろうとしたら知らないっと拗ねてコンビニに先に入られた。

 ひんやりと空調の効いた店内をぐるりと巡る。

 アイスを見ていれば「それはあとでね」とカゴを持ったミアに笑われる。カゴを受け取ってミアの後ろをついていく。横に並ぶには店内の通路は狭かったから。

 ぽんと足にあたった感触に下を見れば以前出会ったおチビさんが見上げてた。

「こら、ファイ、走るんじゃ……おはよう。レン」

「千秋にい、おはよう。帰ってるのに帰ってこないの?」

 ぷぅとほほを膨らませてるミアに千秋は笑って「喧嘩中だからね。おはよう。ミア」と応えている。

「海いきたーい」

「あー、もう、少し大人しく。僕ひとりでちび三人海へ引率はしません!」

 その言葉に周囲を見れば彼の足元にもう二人同じ年頃の子供がいた。

「うみー」

「浜辺で一緒にアイス食べましょうか?」

 ミアがしゃがんで海をねだるちびっこに手をさしだす。

「ほんと?」

「アイス選ばないとね」

「うん! セスもリナもえらぼーぜ!」

 子供たちがミアの手を引いてはしゃぐそばで千秋にデートじゃないのと聞かれて苦笑いする。

 ミアが楽しそうならいいかなと。

「あの女の子前回は会わなかったけど?」

「リナちゃんはこっちの友人のお嬢さん。仕事中の子守り見てもらってるからたまにはね」

 アイスのケースそばで子供たちがはやくーと呼びかける。

 帽子をちゃんとかぶる二人に邪魔くさいと帽子を弾き飛ばしそうなファイ少年。

「おー、うーみぃいいいい」

 アイスなんか忘れたかのように目をキラキラさせて砂を蹴る。

「ファイっ!」

 千秋の制止の声もあれは確実に聞こえていない。

「ほい、捕獲っと。おかえりー千秋兄。んー、隠し子?」

「ちがう。おはよう涼維」

 朝の挨拶を交わしながらじとっと涼維に睨まれる。やっぱり邪魔しに来たね。

「まぁ、デートの邪魔はしちゃってるけどね」

 ここに来ることを提案してくれたのは千秋だ。二人っきりイコールデートとなるのもそのせいだろう。

「ミアと二人っきりぃ?」

「涼維?」

 不貞腐れる涼維を不思議そうに千秋がなだめる。

 涼維はたぶん、結婚するその日まで付き添いなしにミアと二人の時間をつくるなを主張しているせいだろう。そこはそれ妹大事がこじれていて可愛げもある。

「千秋兄だって芹香が志狼ちゃんと二人きりデートしてたらいやじゃない?」

「いや、別に」

 さらっと流されてきぃっと涼維が不貞腐れてる。

「むしろ、振り回される志狼さんが心配かもしれない」

 そんな会話をよそにミアがにこにことアイスをすすめる。はやく食べないと溶けてしまうし。



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