彼女の故郷で
ミアの育った町に一緒に行ってみればいい。自分の故郷とも言える場所は紹介したんだから次は逆だろ?
そんな通話を経てミアに声をかければ、彼女は思った以上に喜んだ。妹であるノアにも声をかけていたが彼女は予習を進めたいと断ってきた。詰めすぎるのもどうかと思うけどと言えばお家に帰ると気を抜き過ぎそうだから。と返される。遠慮しているわけじゃないの。たぶん、いた方が弾よけになれるんだけど。と困ったように笑ってた。
お互いに一緒に過ごす時間はまだ少なくてミアのことはまだまだ知らない。
彼女を知るそんな機会には恵まれたはずなのだけど、比較的応援してくれる隆維と友情は大事だけど妹の相手は厳選したい涼維に挟まれて微妙にミア自身と時間がやっぱり取れない。姉のように仲のいい親戚と一緒にいるせいもあると思う。お父さんとは地味に会話の機会が少ないしね。もしかして避けられてる!?
付き合いの長い涼維にはよく意見や考えを聞いていたけれど、知り合って間もなく心理的な距離を置いてくる隆維は実際のところなにを考えているのかがわからない。
わかっているのは妹への重めの愛だろう。
「妹の婚約者に俺は不満かい?」
「べっつにー。ミアがいいならそれでいいと思うよ?」
へらへら応えてくれるがその目は笑っていない。
「弱みのひとつやふたつあった方がミアを大事にしてくれるでしょ?」
弱みがあったからこその婚約だ。
なければ、確かにこの話自体が存在しない。それだけのことでもなければミアは当時の俺にとって少々歳下すぎた。
「まぁ、いいんだけどさ。ちゃんと好きなら好きって伝えないとミアに『束縛してごめんなさい。好きな方ができたのでさようなら!』ってふられちゃうよ?」
ミアはかわいいからね。とうんうん頷いている。
いや、その、一人前になってからちゃんと、だね。
「一人前なんていつなれるのさ」
「まぁ、ミアちゃんを泣かすなら全力の人脈使って地獄に突き落としてやるけどね! ミアちゃんが捨てるって言うならほっといてあげるわよ?」
「芹香、唐突にわいてくんな」
「失礼ね。共有スペースに通りかかったら面白い話してたみたいだしー、このエリア防犯カメラもあるしー。密会なら外ですればー?」
は?
「そーゆー情報はバラさないの」
「だって、レンくんは家族になるんでしょ?」
不思議そうにセリカ嬢が髪を揺らす。
カメラ?
すっと指さすのは天井と壁の照明。
「ミアちゃんもノアちゃんも私にとっては大事な妹分なの。当時のミアちゃんが好きでした。今はちょっとって言うような変態さんは撲滅したいです!」
「ぼくめつ」
「芹、馬鹿すぎる発言でカッコいい悪の女頭領から遠ざかってる」
「え、やだ。言葉選びミスった?」
なにこのコメディ?
「ま、帰郷の提案は良かったかな。それだけミアのこと考えようとしてくれてるんだろ?」
「そう、だね。ミアには感謝しかなかった。好意はあったけど、たぶんそれは擬似妹の延長のようなもので最近になってミアをちゃんと見るようになってきたんだと思う」
幼い少女はただかわいい。婚約者という名札が少し特別を意識させる。いつか他の誰かに恋をするのかもしれない。それがじわりと嫌だなと思えるように。
「ミアちゃんはかわいいでしょう!」
我が事のように胸を張って得意げな姉もどきについ笑ってしまう。
「大人しくしているのにふいにおてんばなところが顔をのぞかせるところがまたとてもかわいいね」
「うんうん。そーなの。ミアちゃんは控えめで優しくてかわいいのよ。だからたまのおてんばがとても映えるの!」
「芹香、なにしにきたの」
「ミアちゃんかわいい自慢!」
「迷いないな!」
もうやめてとかわいいミアが飛び込んでくる数秒前。
ミアに声をかける前に芹香嬢がミアをハグしてかわいいを連呼。そのまま連れ去っていく。
「二人の時間……」
「デートにでも誘えば? ただ町の案内でもなんて言ったら芹香がもれなく付いてくるぜ。デートって言えば表向きはついてこない」
「表向き!?」
ああ、でも確かにミアもこの町に帰ってくるのは久しぶりだと笑っていたっけ。




