海の朝
起きて足を運べばすぐに海が見える。
どんな早朝でも、ああ、寝坊しちゃったかしらと思ってしまう。いつでも一番いい時間でステキな景色。いつだって最高を見逃した残念感。
「ミアちゃん朝はや〜い。おーはーよー」
芹ちゃんがあくびをしながらパタパタ手を振っている。
めんどくさいから切ろうかなとよく言っている髪が二本の三つ編みになってぶら下がっている。
「おはよう。芹ちゃん」
「りゅーにぃ起こしに行こっか」
にんまりと笑って手を引かれる。
「ダイブ?」
「ダイブ」
変わらない芹ちゃんが嬉しくて私は大好きだ。
「あー。それともミアちゃんはレンくんにダ・イ・ブ?」
ニヤニヤニマニマしている芹ちゃんを前に私は動きを止めていたみたい。
気がつけばハグされて背中をバンバン叩かれていたから。
「やーん。かーわーいーいー。ミアちゃんサイコー」
なんだか恥ずかしくて頬を拳でグリグリする。
レンくんは婚約者だけど、たぶん、今だけだもん。ちゃんと大人な恋人つくるんだと思うの。今はお勉強に忙しくしてるから出会いがたぶん少ないだけで。教えてくれたらちゃんとおわかれするんだけどな。
優しいから、ちょっとさびしいけど……。
「ミアちゃん?」
「りゅーにぃ起こしに行こう!」
「そうね!」
隆維兄さんは結構夜行性だから寝てるはず!
芹ちゃんと過ごすのは楽しい。ここでの時間はああ、帰ってきたって思える。
ノアちゃんも一緒に帰ってきたら楽しかっただろうな。
「いくわっ」
ひそめた声で合図。
芹ちゃんといると引っ張られて悩んでる暇があんまりない。考えこんでいるタイミングでよく手を引かれるから。いつ三つ編みを解いたのかさらさらと癖ひとつない髪がカーテンのように風にのる。
追いつかない。追いつきたくない。それでもそばにいれるほど追いつきたい。
「おっはっよー」
えーい。ダイブー!
空色のリネン。読みかけの本が床に落ちている。
少し冷えすぎに空調の効いた部屋ではかぶっているタオルケットににじむ体温が心地いい。
ああ、大好き。私は芹ちゃんもノアちゃんもお兄ちゃんたちも大好き。
「おまえらもう中学生だろうがあ!」
って怒られたけど、作ってくれた朝ごはんは美味しかった。
でも、隆維兄さんの中学生時代も大概だったと思うんだけどな。散々怒られてたもの。芹ちゃんも思いは同じなのか素知らぬふりで朝ごはんを食べている。
ただ、レンくんにおてんばさんだねって笑われて恥ずかしかった。
隆維兄さんも涼維兄さんもなに言ってんのって顔しないの。睨んだら、顔ごとそらされた。酷いと思う。




