ワザと
2016の夏~
そぉっと後ろから近寄ってぱふりと空を抱きしめる。
「そーら」
柔らかな髪に頬ずりする。
ばくばくと乱れた心音。慌てて整えられていく呼吸。悲鳴でもあげかけてたかなー。
「ごめん。おどかした」ワザと。
表情すっごい見たいけど我慢。
落ち着いてきたリズムに首筋にキスを落として慌てさせる。
真っ赤になった顔と潤んだ瞳にドキドキする。
「ワザと、だよね?」
震える声で問われてたぶん、にこにこしちゃってる気がする。
「うん」
空、かわいい。
ぎゅうぎゅうと愛しいヒトを抱きしめて囁く。
「かわいい空見るの好き」
たぶん、空が怒っても俺は喜んでいる気がする。どんな表情も、そう、独り占めしてしまいたい。
ひとしきり空成分を堪能する。
充電完了ではないけれど、切り出す気合いはたまった。
「あのさ、たぶん、聞いてくれると思うんだ」
何を、誰が、っていうのは抜けた言葉。ちゃんとと言うより、言い淀んでしまわないように吐き出す感じだと思う。空ならわかってくれるという甘え。
「千秋がいらないって言うって思わなくて、それでも、俺はあそこに置きたくないんだ」
ズルいのもわかっている。俺は千秋のそう選んだ理由を誰にも言ってない。ただ、引き取らない。関わらないと放棄すると決めているただその情報だけを空に伝えた。
千秋は、誰かにソレを説明したりしないから。
イヤなんだ。
俺は自分が嫌いだから、千秋の子供がそんな闇を抱え込んで育つ可能性は減らしたい。
イヤなんだ。
他の誰かの子供なら思わなかったかもしれない。
それでも、イヤなんだ。
千秋の子供じゃなく、俺の子とか言われたら、きっと俺は聞かなかったことにした気がする。
フローリアはたぶん、手配してくれる。だって、いらないんだろう?
マンディもグリフも協力してくれる気がしてる。
俺がしたいって動いたらこの件は通るんだろうって千秋の反応でわかった。
エルザにこの件を聞いた時点で空にはこぼしていた。
それでも、このワガママを通していいのかは流石にためらうんだ。
ためらったら言えなくなりそうで、そのままに声にする。
「空、俺の子供になる子のお母さんになって欲しいんだ」
その子供も欲しい。
空も欲しい。
自分のワガママさに苦い笑いが込み上げる。
ほろりと空の頬を伝う雫に思考が停止する。
慌てる俺に向けられる言葉はどこまでも俺に都合が良くて、これが本当なのかが逆に不安になる。
本当にいいのかって。
もちろん、空がいいんだ。空じゃないとダメなんだ。
その子供が欲しいのも事実。
空ともっと近くにいたいのも事実。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
より空ちゃんお借りしてます




