2016年夏鎮
エルザから聞いた『千秋の子供』の話。
持ち出した俺に千秋は不思議そうな表情をした。
ああ。本当なんだ。
あくまで遺伝子的に子供なだけでなんの権利もないと千秋は言う。
それでも、納得できなくて嫌でしかたない。
千秋の子供が知らない場所で守られることすらないかもしれない環境に育つことが嫌だった。
信じる?
あの場所を?
変わっていける?
無理だよ。
個は変わっても、集団は変わらない。
あの場所が選ぶ『親』が信じられない。
千秋はどうして信じることができる?
すごく困った表情で千秋が俺を見ている。
でも、譲りたくない。
さくさくと告げてくる言葉。
どうしてそこまで反対するんだろう?
ままならないのがイヤなのかな?
いることが足手まといだから?
確かに理由は嫌だからしかない。
だって、千秋の子供であることには変わらないだろう?
知らない場所で守られるかどうかすらわからないままいることだけしか知らないのが嫌だ。
千秋の思考の方向性についていけなくて苛立つ。
幸せ?
わからなくて不満ばかりなのに?
千秋がわからない。
なにをしても不満そうであるばかりなのに、幸せかと聞く表情が嬉しそうでわからない。
あそこであっても家族は作れる。
「エルザたちは不満を抱きつつも兄弟姉妹特別な感情を抱いてる。僕と兄さんではつくれなかったもの」
だって、千秋が……わからない。
「僕らはカラ回り、お互いに望むもの譲るべき譲ってはいけないものがかみ合わない。わからないまま」
だって、千秋は知らないままでいい。
知らない千秋にはそのままでいてほしい。
「兄さんがほしいものをほしいって言えたりするのはいーことだと思ってるよ?」
じゃあ、なんでダメだって言うんだよ。
「まともとか、普通とかって揺らぐもんだけど、受け入れるしかないなら準備している受け入れ先の方がいいだろ。そこで生じる影響は兄さんだけじゃすまないんだからさ」
わからない。
親になれるのかと言われて確かに自信は揺らぐ。
自分だけじゃすまない影響だってあるのは理解できる。
たださ。嫌だと思う気持ちは晴れないんだ。
本当はあの場所に関わって欲しくないのにそこにいることを選ぶ千秋がわからない。
誰もいない部屋で息を吐く。
それでも、久しぶりに千秋の笑顔を見た気がした。
うまく千秋の望みがくみ取れなくてうまくいかなくて、どうして俺が受け入れることができないものに千秋は嬉しそうに笑うんだろう。
それがいいの?
わからない。
「鎮にい、どったの?」
部屋を覗き込んで隆維が首を傾げている。
「千秋がわからない……」
「俺、鎮にいも千秋にいもよくわかんねーよ。でもさー、だから面白いよねー」
面白いってなんだ!?




