2016春の日常ヒトコマ 亨
部活を終えて、買い物をして帰宅する。
「おかえりなさい。今日はどうだった?」
玄関に入れば桐子叔母さんが顔を出して聞いてくれる。
ワンピースにエプロン。
ふわりと漂ってくる匂いは焼き魚かな?
「楽しかったです。すぐ手伝いにおりてきますね」
「あら、大丈夫よ。下りてきたら夕食にしましょうね」
桐子叔母さんは渋る僕から買い物袋を受け取って着替えてらっしゃいと追い立てる。ちゃんとキッチンまで運ぶつもりだったんだけどなぁといつも思うのに押し切られるのはどうしてだろう?
桐子叔母さんは帰宅している限り顔を出しておかえりなさいを言ってくれる。その時に買い物荷物を奪われるのだ。今まで阻止できたコトはない。
すっかり自分の部屋として慣れた部屋。手早く着替えてお弁当箱と洗濯物を持って階下に下りる。
なんだかんだで部活はハードな部類ですぐに汗だく。ネットに入れた物を洗濯機に洗剤とともに入れ自動ボタンを押す。
「今日も美味しく頂きました」
お弁当箱をもってキッチンに入る。
当初より料理支度を手伝う割合はがくんと減ったけれど、叔母さんはにこにこ受け入れてくれていてちょっと心苦しい。
「よかったわ。ちゃんと足りてる?」
「はい」
お弁当箱を流しにおいて水を注いでおく。
「じゃあ、お夕飯にしましょうね」
夕食しながらの会話は学校のこと。
去年の夏の終わりから通い出した道場の話題。
商店街にある剣道場。
中学から教えに来てくれている清水先生やOBの高原先生、ほの叔父さんもちゃんと道場いきたいならとすすめてくれた道場。
『護身術くらい姪っ子ほど可愛ければ必要だろう』とかわけわかんないことを相変わらず言われたけどね。いつまでそのネタ続けるんだろう。ほの叔父さん。
……あ。ずっと、とか出てきて自分で落ち込みそう。
確かになかなか身長は伸びないけど、父さんも叔父さんたちも身長は高めだし、もう少しは伸びる、よね?
身長が低いことがやっぱり悩ましいと呟けば、叔母さんが「身長で人の大きさはわからないわ」と笑う。確かに魚沼先生は小柄だけど、すごく大きい人だと思う。それは清水先生もで。こだわることがつまらないことってわかってはいるんだけど、どうにも気になっちゃうんだよね。
自力で補えない身体的特徴を気にする人間的小ささにちょっと反省。
「ごちそうさまでした」
夕食後の洗い物は僕か潤叔父さんの担当。叔母さんも仕事をしているわけだから負担をかけ過ぎちゃいけないと思ってる。
今日は叔父さんの担当日だから寛いでなさいと桐子叔母さんに追い立てられる。
洗濯物を乾燥機に入れて色物として分けておいた残りを洗濯機に入れてボタンを押す。
持久力はある方だと思うけど、たまに余力が少なく感じる時もあって今日がそうなのかなって思う。
新しい環境。
もうここに来て一年が過ぎたんだなぁ。
両親は仕事の忙しい父親優先の生活パターンで一人で夕食ということも少なくはなかった。
母か、叔父達のどちらかがいれば賑やかな食事。ただ、ほの叔父さんは一人で食べることが多いし、潤叔父さんは元々いないことが多い。
父さんに『すまないな』って言って欲しくなくていつも笑顔で『いってらっしゃい』
会話はなくても父に憧れている。
不備や困ったことが少なく済むようにレールを整えてくれて、その上で『好きな道があれば自分で選びなさい』と言ってくれる。
父さんのようになりたいは小さな頃から変わらない。
叔父二人がそのたびに『やめとけ』と言ってくるのはよくわからない。
素敵な好きな人を見つけて、ちゃんと誰かを助けて幸せにする仕事をする父さんに憧れるのは普通だと思うんだけどなぁ。
それでも、ここに暮らしはじめて気がついたのはやっぱり、ちょっとは寂しく思っていたのかもしれない。
今だけ『おかあさん』とか仮想『お兄さん』とか賑やかで楽しいからだろうか?
少し、きっと、中学時代よりはしゃいでると思える。
それまでだって不満はない。
「もう少し引き締めていかないとダメかな?」
将来は今の積み重ね。
もう少し頑張ろう。
朝の走る距離増やすことからかな。
『うろな担当見習いの覚え書き』
http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/
『うろな2代目業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/
『うろな第三世代!』
http://book1.adouzi.eu.org/n3389cp
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水司先生
高原直澄君
お名前のみお借り。
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
魚沼道場(設定)魚沼鉄太先生
お名前お借りいたしました




