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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
807/823

2016春

 一幕の恋患い。


 一枚の葉が落ちる。


 それを受けとめた手の動きと見上げる瞳に恋をした。


 黒髪は艶やかでほんのすこし身長は低め。


 まっすぐに背筋を伸ばして前を見ている。


 柔らかな笑顔は裏切られたことなどない無垢さを感じる。

 苦労や挫折なんか知らなさそうな空気が時に苛立つ。


 風峰亨。


 クラス替えの発表を見に来て弾き出された私に手を差し出してくれている同級生の男だ。

「安高さん、大丈夫?」

「ッ、平気」

 手をとることなく、はじく。

 女の子扱いも名前を覚えられていたことも困惑する。

 私の動きにすこしは驚いたようだけど、心乱した風もなく差し出した手を下ろして微笑む。

「よかった。クラス見れた?」

「大丈夫。確認できてる」

「あ、同じクラスだね。今年もよろしく安高さん」

 ジリジリと掲示板から二人して離れる。

「コウ。確認してくださいました?」

 黒のロングヘアの美女と美少女が笑顔で声をかけてくる。

「同じクラスだったよ」

「ヒロカもですの?」

 肯定する風峰亨に美女が嬉しそうに笑う。

「やりましたわね。ヒロカ。さびしくはありませんわよ」

「ミリー、もう少し交流増やした方がいいよ。今年もよろしくね。安高さん」

「あら。教室にいらっしゃったの?」

 海外からの留学生である女子は興味なさそうに私を見てくる。私だって留学生としか記憶していない。

 注意を促している鴫野さんにつまらなそうな表情を向けて「興味ないことに割く容量はありませんわよ。時間も思考も」と。

 平気だと思っていてもどこかぎりりと軋む。

「第一印象や表面だけで決めてしまうのはもったいないと思うよ?」

 風峰君の言葉にもツンっとしている。

 柔らかく微笑んだ風峰君が「ごめんね」と謝ってくる。

 彼が謝る理由はないのに。

 校舎は見慣れた落ち着きからしばしの騒がしさをはらむ。

 新しい環境に一年生が馴染むまで。

 去年は私だってその一員だったんだろうなと思う。

 比較的校則は緩め。

 時々、思わぬ髪色を見たりする。もう随分慣れたけど。

 多くは成績上位者。

 手の届くことのない高みにいる人たち。

 なんだかんだ言っても『普通』の枠から出ても『普通』である彼らを羨望してるんだと思う。

 一歩踏み出せば、誰も拒絶はしないだろう。

 でも、その一歩がこわい。


 だから、憧れでいい。


 踏み出さなくていい。


 こじれさせた恋心。


 きっと、これはただの憧れ。


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