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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
804/823

無力だと思う。

 紬ちゃんとの関係が微妙なまま時間が過ぎて、美芳が文句をつけてくる。

 一二三姉さんはつまらなそうに七夜をあやして本館からうろなの別館に持って戻った荷物を開けている兄さんを見つめてる。

 海の客の減る頃ようやくゆったり時間が戻る。

 中学でなんとかやっているはやとくんがてきぱきとお手伝いをしている。

 成績もぐっと上がった。

 体育は相変わらず苦手なようだけど運動が苦手なわけではないらしい。

 どちらかというと電化製品は苦手らしくよく戸惑っている。便利なのに。

 そんな忙しさが抜けた頃に健と千秋と喋る時間がとりやすくなった。

 千秋は家族との時間を避けているように見えた。

 ずっと、ずっと抑え込まれた不満に向き合うことか痛いんだろうなぁと思う。

「あーもうへこむー」

 露骨に弱音を吐くのは実のところ珍しくて、心配になる。

 千秋はうだうだしてることは多いけれど、かなり前向きな性格だから。

 健は意見違うかもだけど。

「あん?」

「大丈夫?」

 問いかけは健とほぼ同じタイミング。

「いろいろままならねー」

 彼氏にした男の子とうまくいってないの?

 その気がないのは知ってるけど。

「手を貸せる?」

 たいしたことはできないけど、少しでも気晴らしの役に立てる?

「いつも、助けてもらってるから」

 遊ぼうって差し出された手を忘れられない。

 素早く反応を返せなくても待っていてくれた。

 突発的に話題を振っても気にせず応えてくれた。

 わからなくて出来なくても、受け入れてくれた。それでいいって友達であることにそこは関係がないって笑ってくれた。

 反応が面白いからって言われても否定された気がしなかったのは初めてだった。

「サンキュ。僕も救われるー」

 ぎゅーっと抱きつかれて照れ臭い。千秋は控えめにしているけど、スキンシップを好む。触れて抱きしめて軽いキスまでは『挨拶』のうち。初めて会った頃は少し残ってたけど、次第になりを潜めてた。不安な時に起こりやすいんだ。もしかしたら外国(むこう)では日常なのかなとも思う。

 美芳がセミナーとか組んでくるのは鬱陶しい。それでも、千秋がそこにいることが多い理由はさすがにわかる。

 できることって言われても本当に何もできることってない。

 多分、原因であろう鎮にチクチク嫌がらせくらい?

 なんでわからないんだろう。

 他からのトゲは千秋気にしたりしないのに。

 先に進もうって千秋は手を差し出してくれる。

 するりと千秋がはずれて距離を取っている健に悪い笑顔を向けている。

 喧嘩相手から悪友に進んだ二人の仲の良さは少し羨ましい。

「兄さんってさぁ、早く、呼んでやれば良かったんだろうなぁ」

 双子なんだし気にすることねぇだろって健がこぼしてる。

 名称なんか関係ないよなと思うし。

「対等にありたかったんだよな」

 こだわる部分が違うと理解し合えなければ対等な関係なんてあやふやで不安定だ。

 それにどちらかが理解して譲れと要求することは正しくないだろう。

 双子の兄弟で。

 お互いに要求して、お互いに相手の答えが理解できていないことを周りが何を言えるんだろう?

 適切なアドバイスが理解できないのに。

 何にもできない無力感。


「たぶん、お互いに理解できねぇんだよな」


 その言葉は諦めなのかな。ちらりと見れば笑っている。

 それは満足そうだけど、痛いって思う。

 どうすれば、力になれる?

「兄さんは、俺を言い訳に幸せを望まない気がするんだよなぁ。そこは、いい迷惑」

 はぁっと続けられた言葉にちょっと納得する。

 鎮は依存していないと不安だから。

 依存する相手の反応に敏感になる。

 自立した対等なんてきっと鎮は望んだことがない。

 それは自分に責任を持たない生き方で凄く楽。

 辛いこと嫌なことの重さを人に押し付けて生きるってこと。

 鎮が、想定したのかも知れない千秋を喜ばせる行動はことごとく怒りをかって、鎮もきっと混乱してるんだろうなぁ。いい気味って思ってた。

 きっと、それは千秋への裏切りだったんだろうけど。

「千秋は今、楽しい? 幸せ?」

 きっと、痛くて苦しいって聞いても頷いたりしない千秋だから。逆に幸せかって聞く。

「そんなの!」

 深い緑の眼差しはいつだって変わらない。明るく鮮明な赤にいじられた髪はこびりつくような古い血を思わせる元の色よりどこか浮いている。

「こうして話が出来るダチがいて、楽しくないなんて嘘だろう?」

 そんな笑顔が嬉しくて、言わせた自分が辛かった。

「セミナーがんばる」

 千秋が応援して付き合ってくれてるのはその方がいいと考えてるから。

 重要なんはセミナーの内容でなくて人のいる空間になれること。

 千秋が笑って無理はしすぎるなよと言ってくる。

 まだ、大丈夫だから。

「禁煙無理かも」

 疎外感を覚えたのか健がまじってくる。

「やりきれ未成年」

 打てば響くような千秋の返答。

 他愛ない会話。

 出来ることはないかと聞けば、紬ちゃんの誤解を解けと言われた。

 ちゃんと、自分から紬ちゃんに美芳とは姉弟だと説明しておけと。

 してなかったっけ? と思いつつうまくやれよと差し出された手が嬉しい。


 紬ちゃんと距離感はある。

 でも、美芳に恋人がいると知って一気に穏やかになった気もする。


 力になってもらえるばかりで何も返せない。

 そうボヤいたら健に後ろからどつかれた。

「健ってさ。鎮と千秋どっちの味方?」

「知るかよ。どっちもウゼェ」


 クリスマス前に千秋が帰国してきた。

 相変わらず家とバイトに忙しなくてなかなか時間はとれない。

 それでもバイト先の買い物ついでに挨拶してくる時もある。

 その時は「また後で」といつものように別れる。



 傷が深いと感じるのに本当になにもできない。


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