欠けてる自覚
「スポンジはチョコがいい」
「わっがままだなぁ。材料有るからイイけどさ。大人しく勉強しろよ。受験生」
参考書を解きながらキッチンでケーキ作り中の千秋兄を見る。
涼維達はむこうのクリスマスに出てから、こっちに帰って来るからまだ帰っていない。付き合いって超重要。
千秋兄にしても対人をないがしろにしてないだろうか?
「デートとかイイの?」
夏の間の恋人とは?
「ぁ? エシレなら、あいつも受験生だろ? 夏の間の約束だし」
手の届くところに置かれるホットミルク。
「ねぇ」
「あん?」
「恋人は男の人がイイの?」
呼び掛けに振り返ってぶつけられた問いかけを受け、きょとんとグリーンの目が俺を見てる。
不思議そうに。
「女の子の方が柔らかくて好きだぞ」
紡がれた応えは妙に生々しかった。
「たださ。人を好きになるのに性別は一要因に過ぎないだろ? 人間なんて繁栄し過ぎてるんだし、その一部が非生産的な愛に生きる方がバランスがイイんじゃないかなぁ。隆維は気持ち悪い、か?」
俺が、気持ち悪いか?
「ん〜、気にしない」
恋愛は自由だし。
「ん。良かった」
声が嬉しそうに聞こえた。
あれ?
これ、そんなに重要な問いかけだった?
「たとえさ。好きなのが同性だとしても忌避するのはおかしいと思うな」
コレは正直なところ。
「へぇ、どうして?」
「だって、同性しか好きになれない人だとしても、たまたま同じ性だったってだけで自分を対象にするわけじゃないし」
そう。だってさ。
「選ぶ権利は有るよね。誰にだって平等に」
そして断るのも応えるのも、そこに性別は本来関係ないんじゃないかと思う。
「好きだって告げられたら?」
小さな含み笑い付きで問われる。
「好きの種類を確認するべきかなぁって思う」
友達として普通に告げられたのかもしれないないから。
「じゃあ、相手の性的嗜好は関係ないね」
ホットミルク吹くかと思った。その反応がおかしかったのか、千秋兄が楽しそうに続ける。あんまり褒められないような内容を。
「とりあえずは、ほら、女の子の方が好きだけど、気持ちイイならイイかなぁってね!」
わかんなくはないけどね!
四つの年齢差は意外と大きいんだよと愚痴りたくなる。
ケーキ作りの甘い匂いの中で勉強する。
誰かがいるキッチンは好きだなぁって思う。
「おなかすいた」
ツリーの飾りつけを手伝っていた碧の声。
「お。おやつあるぞー。受験生二号」
千秋兄がホットミルクとクッキーの皿を差し出す。
人の形や星型。クッキーの型集めの成果がそこにあるという気分になる。
「クッキーばっかり?」
「ケーキも作ってるけど、まだできてねーよ。クッキーもこれから飾るし、その前に来て良かったな」
碧が少しホッとした表情でクッキーをかじる。
「受験、こっちにするのか?」
千秋兄の言葉に碧が頷く。
「あいつのことは心配だけど、にーさんたちやかあさんがちゃんとしてくれるし、一緒にいない方がバレないと思うんだ」
小声で飛鳥ちゃんがたまにこっちに連れて来てくれるしとこぼしてる。
「そっか。いろいろあって大変だけど、学校は精いっぱい楽しめよ」
「それには合格しないと!」
「じゃあ、おかわりはカフェオレにしような」
だんらんって感じでほっとする。
鎮兄は日常デート率高いからなぁ。
空ねぇ困ってないとイイけど。
「碧、芹香は?」
「あー。飾りつけにこだわって、あーでもない。こーでもないって暴れてた」
碧の説明に不器用な癖にこだわる芹香の様子がすっと浮かんで笑いがこぼれる。
「呼んでくるよ」
椅子から降りた俺に「よろしく」と手が振られる。
こういう瞬間に欠けてることを実感してしまう。
いつまでも同じではいられなくて、変わっていく。
それは事実で、間違ったことではない、はず。
それでも、もう少し惑わずにいたいなって思ってしまうんだ。
「芹香、おやつだぞー」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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空ちゃんお名前チラリ




