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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
799/823

風峰仄

「困ってるだろ」

「別に」

 愉快そうに笑う姿が苛立たしい。

 潤は半分ほど血のつながった、もしかしたら全部血の繋がった兄だ。

 母は二人の男の間でフラフラと行ったり来たり。

 それを許してしまった父たちが理解できない。

 父は渋い厳めしい表情で『母』だけは特別なのだとこぼす。

 上の兄は十五も上で情の薄い眼差しが色を帯びるのは潤に対してだけだった。年が近いからなのか。

 構われないわけじゃない。構われたいわけでもない。

 両親にも兄たちにも。

 ただそこに潜む感情が信じられなかった。

 疑わしさが晴れなかった。

 だから、赤ん坊から知っている亨だけが信じられる。

 無責任に愛情を注げる。

 一生そのまま、それで終わればいいと考えていた。

 成長とかそういうモノに興味は触れなかったから。

 無防備に信じてくる存在を『気持ち悪い』と排除したのは集団生活、学校に通うころ。

 父は兄が自慢の跡継ぎに育っていると理由をもって末の子はしかたないと叱りつけはしなかった。

 叱られていたら変わっていただろうか?

 なにをしても違法に手を染めない限りは守ってもらえた。

 ただ、違法に手を伸ばすほど、外に興味はなかった。

 忙しい上の兄と違って、潤はスキンシップ多めで乱暴。

 見知らぬ公園に引っ張って行かれる。たぶん良かれと思っての暴挙。

 気がつけば、見知らぬ友だちと遊んでてこちらは一人見てるだけ。

 母はどうだっただろう。あまり記憶に残っていない。

 それが、家族。

『もう少しガード下げろよ』

 潤の言葉は意味不明。

 手を繋いで見知らぬ町を歩いた。

 嫌いじゃなくて興味がない。

 信じられない。気持ち悪い。

『おかえり』

 兄の笑顔も心配そうな眼差しも嘘くさくて気持ち悪い。

 兄はただただ理解があって甘い。

『おまえは出来る子だから』と笑う。

 上っ面だけの本音を感じない言葉。

『バカだろう』

『ひっでぇ!』

 兄の感情(ほんね)を引き出すのは潤。

 その差は常にあった。

 自分は恵まれているのか、恵まれていないのか。

 (だれか)には、興味を持てないけれど、なにかには興味があった。

 学校にはこだわることのない父だけど、通信講座のパンフは定期的に寄越してきた。

 自分でも収入を得る努力はするべきだと思ってた。ただ、人とは無縁が良かった。

 本当に潤はいつだって強引で余計なことをする。

 見知らぬ町での生活。

 仕事はデータ入力作業とダウンロード販売。

 父兄からの月々の仕送り。

 正直、通信高校年二回登校で。そう言うのをうたっている学校の方が気楽だろうと思う。

 学校に通うメリットはコンビニ新製品の飴の見落としが減ったくらいだろうか?

 学校は思ってたより各自の距離が楽だった。

 ただ、登校は煩わしい。

 イベントには参加を強要してくる潤。

 昔より人との距離はうまくとれるようになっただろう。

 興味がない。

 校内では人の反応を透かし見るような相手も踏み込んでは来ない。

 関わりながらも関わりのない関係性がはじめて人に興味を持たせた。

 それに亨が新しい話題を喜ぶし。

「好きでいいんじゃないか?」

「なにを言ってるの?」

 潤がどうしてわけ知り顔で諭してくるわけ?


 ムカつく。


「好意を寄せられんの嬉しいんだろ?」

 なにそれ。

 勝手に決めるなよ。

「もの珍しいだけだろ。新婚の夏にイキナリ単独旅行に出かけたバカに対人についてとやかく言われたくない」

「あー、立て替え分はちゃんと請求きいたからじきに返すって」

 問題は特になかったのか。珍しい。

「バートが奢ってくれるって言うしさー」

「返さなくていい」

 あそこから出る金ならいらない。胡散臭い。

「あ、そう。おっけー」

 軽い口調のバカにハメられた気もするけど。

 嫌なものは嫌だ。

「チャリ屋の嬢ちゃんに熱烈アタック受けてるんだろ」

「じきに飽きると思う」

「飽きないかもよー」

 ニヤニヤしてる姿が本当にムカつく。

「飽きるよ。他にいい出会いあるよ」

「そうか? あの子は恋愛はあんまり得意じゃないぞ? すぐ分かる遊び人には引っかかることはないだろうけど、タチの悪いのに引っかかって泣くことはあるかもなぁ」



 ムカつく。



 夏が終われば飽きたのか、距離感を感じる。

 鞄に入れてある飴袋から適当にひとつとって口に入れた。

「ほのちゃん。いつもありがとうね」

 奥さんの言葉に首を振る。

 バイトも入ったし、店主の体具合も良さそうだから、もう通わなくてもいいだろうとは思う。

 それでも、

「また明日」

 そんな言葉をかけられて頷く。

 少し、優柔不断と言うか、流されてると自覚する。

「あ、おつかれっした。また明日〜」

 バイトの子も軽くそう挨拶してくる。

 平日なら「学校間に合うのか?急げよ」と誰というわけじゃないが声がかかることもある。

 面倒だと思うのに悪い気がしているわけでもない。

「クリスマスデートねぇ。相手くらいすぐ見つけられるだろうに」

 サイトを巡って流行りものチェック。

 クリスマス、ねぇ……。

 クリスマスデザインは毎年作り直してアップしている。季節イベントは抑えておかないとマズイから。

 クリスマス、イースター、ハロウィン。

 あとピンポイントでいくつか。

「おじさん、仕事中?」

 亨が覗き込んでくる。

 ごはんたべてる?

 簡単に買い物してきたからさっと作っちゃうね。

 甲斐甲斐しくちょこちょこしている姿は、

「本当にいいお嫁さんになるなぁ。自慢の姪っ子だ」

 からかえばぷぅと頬を膨らませて否定する。

 夏過ぎから商店街にある剣道場に通いはじめた亨はイキイキしている。

 部活でもやってるのにまだ足りないんだろうか?

「学校の部活と道場は違うんだよ」

 そんな主張を聞いてもよくわからない。

「自転車屋さんのおねえさんとお付き合いするの?」

 キラキラ好奇心溢れる眼差しで見つめられた。



 おまえもか。



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