それぞれの夏 ほのちゃんゲットアタッカー
「あれぇ、千秋いらっしゃい。美芳さんもいらっしゃい」
「おはよ」
「大丈夫だし、帰る」
千秋と美芳さんが微妙会話。
「チャリ、専用いるんだろ?」
「んー、共用あるし」
客だった!
「経費でいけるんじゃないのか?」
千秋の言葉に小さく美芳さん頷く。
「じゃあ、専用の方がいいと思います。あるとないじゃ機動力違うし!」
紬ちゃんとライバルでも客は客!
逃さない!
「ケアも万全!」
セールスセールス!
面白い子ねと最終的には笑ってくれた。
「千秋、仲いいの?」
「んー? 知りあった時期は逸美とほぼ一緒だし」
美芳さんの試乗中に千秋をつついてみる。ないなと思いつつ、彼女に気があったことでもあったのかとか。
「恋人いるはずだし」
「はい?」
サラッと何言った!?
「美芳は高校時代からつきあってる先輩がいるはず。ちらっと聞いた覚えがあるし」
え?
「それなのに、いっつーにちょっかい?」
感じ悪くない?
千秋はチラッと視線をくれて、手の届くところの自転車の前輪を回転させる。
「もっと、外に対応していけっていうのは真っ当な方向性だと思うけど?」
う。
それはそうか。
「ま、余計なこと言うとうるさいしなぁ」
あー、付き合い関係微妙かぁ。
微妙と言えば、
「千秋さー」
「んー?」
「紬ちゃんに逸美との仲ぷち疑われているから」
「はぁあ!?」
表情はありえないと言いたそうだった。
「ない。マジない。それは菊花ちゃんが愛子ちゃんとつきあってるくらいない」
「よりによってなぜ、その組み合わせなんだ! ……わかりやすいけど」
あのレッサーパンダは麻衣子とつきあってるのよ!
意外と激しかった否定を受け入れて雑談。
どうやらいっつーにとって非常に近い位置にいる女性には変わらないけど、恋愛要素はないらしい。
「美芳の立ち位置は隼子さんに近いかな」
隼子さん、いまだフリーなのか、宇美さんに振られたにーさんとつきあってるのか、いや、縁遠そうなんだけど。
気がつけばほのちゃんが購入決定らしい自転車の微調整をしていた。
「本人同士のことに首を突っ込んでもしかたないだろうに」
「つまり〜、ほのちゃんと菊花ねーちゃんのことに絡むなっと?」
涼維がほのちゃんに絡んでる。
「絡むもなにもなにもない」
……ほのちゃん、私のアタックはいったい!?
体力のいる作業を有り余ってる涼維に任せてほのちゃんはパソコンを操作している。
もっとわかりやすいアタックが必要か!
「なにやってんのー」
「仕事」
「チャリ屋の?」
「本業。家賃分は稼がないとマズい」
「カツカツ?」
「……納入後入金までのタイムラグがあるから」
「あー、今余裕があるっていっても先があるんだ」
思わぬ情報ゲット!
涼維が背中にもたれて画面を覗き込んでも文句はつけない。子供って得?
涼維よ、ガンガン情報を引き出すのだ。
「家賃払い不安なら菊花ねーちゃんの部屋泊めてもらえばいーじゃん」
いや、待て。涼維、他に空き部屋は作れるから私の部屋はないだろ?
いや、うん。応援なのか、な?
「人に貸し借りは作りたくないね」
「じゃ、ここの手伝いは?」
「バカがこの辺りで迷惑かけてそうだからな」
バカっておにーさんのことなんだよね。確か。
遊びに行こうという誘いは基本断ってくる。
手伝いには変わらず来てくれる。
これは脈があるのか、ないのかがわからない。
男を見る基準は父さんに商店街の男たち。
憧れるなら直樹にーさんなんかがいるから基準が高くならざるえない。
成績優秀で面倒見よく、行動力も対処能力も高い。澄にーだって高い企画力、全国にまでいける運動能力にコミカルで愛嬌のある性格で一途。そばにいる分、素直に憧れきれない部分もあるけどね。
恋愛事象に陥ったところを見てなければ、日生の兄弟だって悪くない。あいつらなんだかんだとフェミニストだと思うし。ナチュラルなレディファースト? ヘタレだけど。でもこれも近いから見えてるのはわかってる。
でも、つきあいたい。特別だ、なんて思ったことなかった。
「ほのちゃんが、いいんだよ。ほのちゃんだから、いいんだよなぁ」
呟いて顔を上げたら、ほのちゃんと視線がかち合った。
あ。聞こえた?
「ほのちゃんが好きだよ」
笑顔で言って、じっと見つめたらすぃっと顔が背けられる。
傷つかないわけじゃない。
「ちゃんと、選ぶ権利が両方にあるのはわかってる。ほのちゃんが好きだよ。ほのちゃんは好きになれない?」
私をそういうふうに見れない?
でも、きっちりと断ってもくれないよね。
「……どうして、おれなの?」
「好きだから」
うん。そう、
「好きだからだよ。イイ男もダメ男も適当に見てるけどさ、ほのちゃんがイイんだよ」
それ以外の理由なんてない。
イイから惹かれてるんじゃなくて、ダメだから惹かれてるんじゃなくてほのちゃんだから惹かれてる。
「ほのちゃんなら私が養ってもイイくらいに好きだからだよ」
あ。
嫌そうな表情。
うん。
だから、イイんだよね。
「うん。ほのちゃんは自立してたいタイプだよね。ちょっとのつきあいだけど、ほのちゃんの世界を知りたいって見てたから、そうじゃないかなって思ってた」
違っててもイイんだけど合ってたらどこか嬉しくなる。頬が緩むのを必死に抑える。
「もっと、ほのちゃんが知りたい。ほのちゃんの世界は私の世界と違うから、その世界を知っていきたいの」
知るのなら、他の誰かの世界じゃなくてほのちゃんの世界がイイ。
「カッコイイと思える人だって、優しいって思う人だって頼れるって思える人だっていたわ。もちろん、いっつーみたいに誰かの助け必須な相手だってね。年上だって年下だっていたわ」
下ならみっつくらいは許容範囲だよねー。
上は、工務店のおっちゃんかな。怖い顔だけどやっさしいから。おもしろいし。初恋だと思う。
次の恋は、二次元ヒーロー。カッコよければいいじゃない?
手には入らないけど、楽しかった。
そのあとの恋人と言えるのは、過ぎゆく風。
自転車が恋人だ。
今のところ、一泊で行って帰ってこれるとこ止まりだけど、遠くまで行ってみたい。
たぶん、両親や親類みたいに本気で好きになった誰かはいない。同じくらい好きで、特別がいない。
特別の好きって見ててコワい。理解できない。そう思ってたんだと思う。
深入りするってコワいよ。
どこまで自分を晒して大丈夫?
「でも、知りたいのは、好きなのは、ほのちゃんなの。コワいけど、もっと、知りたいの」
「コワいなら知る必要はないだろう」
拒絶ポイントを見つけたとばかりにほのちゃんが告げる。
ほのちゃんはこのあたりがズルい。
「ほのちゃんは私が嫌い?」
自分がどう思っているかを教えてくれない。
もう嫌われてるのか、どうでもイイとしか思えないのかはっきりしてほしい。
父さんもまだ本調子じゃない現状で手伝いを失うような賭けはするべきじゃない。でも止まらない。
「まだ、子供だろう」
「うん。お酒も飲めない子供だよ。未成年だもの。でもね、この好きが、他の好きと違うのも、答えをはぐらかされてるのもわかるくらいの判断能力はあるわ。それに、年だけ上でも、大人とは限らないわ。判断能力の基準は年齢加算される部分も多いかもしれない。でも、年齢加算でわからなくなることもあると思うし、ほのちゃんって大人なの?」
年齢で大人になるんじゃないと思うんだ。
きっと、経験を積み重ねていろんなことに対応して、処理できるだけじゃダメだと思うんだ。
出来ない事があるからって大人じゃないなんて思えない人もいれば、ソツなく何でもこなしても、子供だなぁって人だっている。
責任をとれるのが、大人じゃなくて自分を崩さずに生きていける人が大人なんだと思う。
「私はまだ成長途中だけど、好きと告げるなら今で、ほのちゃんがイイの」
イヤなら嫌いって言えばイイのにほのちゃんは沈黙で希望を残すんだ。
ほら、子供が納得できる答えを頂戴?
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
高原兄弟話題で
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
タカさんちろりとお借りしました!
商店街のなじみということで♪




