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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
793/823

夏の

 夏休みは過ぎていく。

 タイミングを見計らって兄さんたちが宿題を見てくれたり遊んでくれたりする。

 その光景だけ見ていればミアちゃんノアちゃんが小学校に上がったころを思い出す。

 もちろん、その時とはあまりに状況が違うけど。

「つまらないわね」

 ぽんと言葉を放り出す。

「この町の治安はともかく、不審者情報が多いんだから一人で出歩くのもどうかと思うよ?」

 独り言に言葉を返すのはなぜか予定オーバーでまだいる一守想麻。

 資料整理の元に滞在中だが、ただいま、さーやちゃんとひと夏の恋愛中とのうわさ。ちぃ兄の監視対象だ。

「平気よ。さーやちゃんのお買い物とかに付き合っておいたら?」

「今はミラちゃんミアちゃんとお裁縫してたと思うし、じゃまはしたくないよ」

 年齢的なつり合いはいい相手だと思う。お互いに好きなら後悔する前に一歩踏み出せばいいと思うのに、ためらう大人ってわからない。

「好きじゃないの?」

 鎮兄なんか、大好きな空ねぇとほんとは一瞬たりとも離れたくないって感じだし。

 清水センセや小林センセのトコも少なからずそんな空気はあるよね。それぞれのバランスの取れた距離感?

「さやかさん?」

 それ以外にもいるの?

 じりじりと眩しい太陽。朝もまだ早いのに蝉も鳴かないくらいにもう暑い。

 できるだけ激しい運動は避けましょうってテレビの人も言っている。

 跳ねた勢いでずれたつば広の帽子をかぶりなおして見上げる。ああ、帽子って嫌い。うっとおしい。

「素敵なヒトだと思うよ」

 声はやわらかく感情をのせた声。

「告白するの?」

 ステキ。人のロマンスってドキドキする。そんな風にもえたいのに声の調子から違うことがわかる。

 だけど、とか、でも、が続く気配。

 案の定、頭は横に振られた。

「だから、だからこそ幸せになってほしいと思えるから、私の気持ちは知らせない方がいいんだよ」

 大人って面倒くさい。

「他の誰かと幸せならいいの? 想麻が幸せにするんじゃないの?」

 好きならそうすればいいじゃない。

 知ってる限りさーやちゃんに他に相手はいないでしょ。

「生活費を工面するぐらいなら研究費に注ぎ込む研究バカは連れ合いを作ることは許されないんだよ。辛い思いさせちゃうからね」

 それって、

「普通におバカじゃないの?」

 死ぬから。

 普通に死ぬと思うから生活優先してから研究しようよ。

 想麻は苦笑い。

「しかたないから、生活費と次の研究費確保を優先してるよ」



 ◇◇



「さーやちゃんは想麻のこと、どう思ってるの?」

 さーやちゃんは母さんと同じ顔。髪の色を少し明るめに色を抜いてくれてる。

「ん~」

 どう答えようか思案しながら手招きしてくれる様は千秋兄と同じ癖。

 リビングのソファに並んで座る。

 ほっぺをふにっと引っ張られる。

「セリちゃん、想麻『さん』。大人の人には敬称つけようね」

「ふぁあい」

 放してと暴れると笑いながら放してくれる。

「それで、想麻さんのことどう思ってるのー?」

「そうね、手落ちは多そうな人よね。ぼられてても気がつかないんじゃないかしら?」

 そこなの?

「千秋兄と一緒でひと夏のアバンチュール?」

 くしゃくしゃと髪をかき混ぜられる。

「もしかしたら、追いかけちゃうかもね」

 軽くウィンクされる。

「さびしい?」

 額にキス。

 見上げたらニコニコ見てる。

 さびしいのかな?

「いなくなっちゃうの?」

「さびしいか」

 ぎゅっと抱きしめられる。

 さーやちゃんはぎゅっとしてくれる。

 お母さんがぎゅっとしれくれないからか、このぎゅうが、すごく好き。

 鎮兄も千秋兄も今はそっとしとくべきだと思うから、さびしいなんて思ってないし。

 他にもおうちに人はたくさんいるし。

「さびしくないもん」

 そりゃ、生活に困窮しそうな研究バカさんかもしれないけどさ。

 追いかけたいとさーやちゃんが思うんなら、きっと応援できるもん。

 それぞれの幸せを追うのは素敵だもん。

「そっかぁ。さびしいか~。そっか~」

 ぎゅーっと抱きしめられる。そのまんま髪をくしゃくしゃにされて膝に乗せられる。

「さびしくなんかないってばっ!」

 反論してもさーやちゃんは笑ってて放してくれなくて。

「はいはい」

 夏が終われば学校もはじまる。

 また、お兄ちゃんたちもいなくなる。さーやちゃんも好きな人を追いかけるならいなくなる。

「そばにいなくてもセリのこと大好きだからね」

 欠けていく家族っていうのはさびしいのかもしれない。

「決まってるじゃない」

 わかりきったことをさーやちゃんが言う。

「うん。うん。拗ねてるのがかわいいぞぉ」

 すねてないもん。

 今日のさーやちゃんはミントの香り。

 歯磨きみたいな臭いっていうとグリグリされる。

「大好き。さーやちゃん」

 だからね、幸せになれるために追いかけるんならきっと止めたりしない。

「あのね、姉さんの子も、兄さんの子も、私にとっては我が子みたいなものよ? 愛してるわ」


「うん。だいすき」








『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空ちゃんちらり


『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水夫妻・小林夫妻ちらり

話題でお借りしました。

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