ジークと鎮おそうじタイム
天気はどんより。
屋上の手すり磨きに最適な曇り空って、俺は青空の方が好きだ!
「シーズーメー」
ざっくりと掃除仲間に声をかける。体力有り余るおチビさんは商店街に売りに出された。体力有り余りに関しては学生時代剣道部で有り余る体力を発散していた『スミニィ』とやらに頼んだから問題ないらしい。
「伸ばし過ぎ」
「おまえは千秋追い詰め過ぎ」
苦笑いされたから軽く返しておく。
「何があったの」
「ノーコメント。喋ったら千秋に信用してもらえなくなる」
あ、くすみ発見!
「ふぅん」
同じ赤い髪。
より深さのくらい緑の目。
千秋は自分より鎮が才に恵まれていると思っている。
……違うのに。
鎮はできないことが許されない場所でそれを当たり前に生きている。できないことが許されないこととして吸収する。
言われたことを受け入れて全うすること。その絶対性の問題だ。
壊れたモノは戻らない。新たな形になるだけ。
「てっきり、研究室がプラン進めたのかと」
ポンと、当たり前に鎮が告げた。
声は雑談の延長。
快も不快も含まれていない。
ジッと見ていると不思議そうな眼差し。
「プラン、進んでるんなら指示を進めないといけないだろ?」
「俺はそーゆー情報は知らねぇし、聞かない。理解できないからな。レックスかフローリアに問い合わせろよ。それかプランの連絡先だろ」
「やっぱり? 一度、メールしてみる」
そこは少しふぅと息を吐く。
「プラン進めるって言われたらどうするんだ?」
それは千秋がいきたい方向を止めるかも知れないし、進めるかも知れない。どこの研究室かは知らない。場所によっては今以上に千秋を追い詰める。
「問題なく手伝うように言われてるよ」
まあ、そう答えるよなぁ。
それ以外の答えなんかないのが普通だから。俺たちの所有権は『庭』に有り、自由なんて仮初めだ。
「千秋には自由でいてほしいのかと思ってたよ」
ゆらりと視線が少し泳いだ。
「プランは、失敗してたはずなんだよ。失敗してたらなんの干渉もないはずだったんだ。……答えは、くれないんだろ? ねぇ。ジーク」
揺らぐことをやめた深緑が俺の顔をうつす。
「千秋は、なにに怯えているの」
「答えるわけないだろ。今、信用を欠くわけにはいかないんだよ」
しかたなさそうに息を吐き出す仕草に握っていたこぶしを緩める。
「そっか。じゃあ、そのままで」
にぱりと笑顔。
「話、かえるね」
「おっけー」
気楽な話題がいい。
「吉羽のが何で近づいてんの」
足払いされて床に押し付けられる。
「き、きつは?」
「吉羽、エシレ。俺らの実父の被害者が産んだ息子だよ」
「お、弟?」
「んなわけあるか。母さんより二年前に被害にあった人だよ。母さんの後は三日たたずに拘束されてるから幸いにして次の事件は起こしてなかったんだ」
兄弟ってわけではないのか。
じっと視線が合わせられる。
答えろという圧を感じる。
「お互いに、知っているさ!」
ああ、これは答えていいだろう。
千秋が知っていることもエシレがその事実を知ってることも本当だ。
「知ったうえで、知り合っていくことの邪魔をするなと言われたら、それを尊重するさ」
引き裂いてやりたくても。
「そう」
「あー。掃除終えたらうまいメシー」
「その前にシャワーなぁー」
ふっと体をよけて掃除に鎮は戻る。
「シーズが押し倒すからだろー」
「人聞き悪いなぁ」
「彼女を庭に巻き込むか、千秋を切り捨てるか」
他愛無い。禁断の問いかけ。
吹いた強い風が俺の問いかけをかき消す。
答えは聞こえなくていい。
『うろな担当見習いの覚え書き』
http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/
『うろな2代目業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/
高原直澄くんちらりお名前のみお借りしました




