涼維売り飛ばされる
「涼維。モール行くけど、ついてくる?」
千秋兄の声に俺は頷く。
「行く!」
「一緒!」
すでにお出かけ準備をしたミアがにこにこしてた。
「ぬいぐるみ作るのー」
ミアの言葉に千秋兄の方を見れば頷かれた。
「ぬいぐるみキットを使ってアニマルぬいぐるみを作ろうって教室。芹香ノアミアでみっつな。ミラちゃんもいるんならキットだけ買って作ってもいいな」
いい案かなと思う。
「着替えてくる!」
千秋兄は逸美にーちゃんの話を聞きながらぬいぐるみの生地を縫い合わせている。
ミアは機嫌よくふたつめのぬいぐるみにトライしてる陽光さんにポイントを解説されながら作っている。
ところでクマのキットを使ってなんで団子尻尾デブ猫を作ってるの?
普通の猫キット使えばいいんじゃあ?
陽光さんは時々琉伊の子守りをしてるらしい。自分の子を遊ばせるついでに。
まぁ俺はその二人をよく知らないんだけどね。
昨日も逸美にーちゃんは料理教室だったけど、いた。
今日も一緒にいるのは違うけどって、千秋兄の持ってる冊子を思い出す。
習い事の教室。体験型の回数の少ないもの。もしかして、逸美にーちゃんの予定してる講座リストだったり?
今日は昨日見かけた挙動不審と違って、落ち着いて愚痴をこぼしてる。内容までは聞こえないけど。
毎日あの挙動不審じゃキツイよなぁ。
カルロはクマのぬいぐるみをもっていた。古ぼけたクマはおじいちゃんから贈られた先祖伝来百年物のクマ。
そのクマを抱きしめて嘆く女性に寄り添う少女と男。
記憶の中のマリージアの家族。
「クマさんじゃないわ」
がっかりしたようなミアの声。
「作るんならクマよりネコかな。このポーズが良かったからなー」
陽光さんは小さな巾着袋を掲げる。
ビー玉や小さなハートのアベチュリンあっちのクロスはマカライト?
「ちゃんと心臓を入れてやらないとな」
「え!? 準備してないわ」
ない。
普通ない。
ミアは悪くない。傷ついた眼差しで講師のお姉さんを見つめちゃってる。
千秋兄が端切れをもってミアの前に来た。逸美にーちゃんに集中してたんじゃないのか?
「どうしよう、千秋おにいちゃん」
命があげれないと泣きそうなミアに端切れを握らせて、
「これでハートを作ってあげようね。赤い刺しゅう糸がいいかな?」
おお、いい案だ。
「袋にして少しだけ待ってて、すぐ戻ってくるから」
で、幾つかのたぶん、ペンダントトップ。急いで買ってきたそれが心臓に使われた。三百円ショップかな?
ちなみに千秋兄の作ったのはくったり白兎とぱんぱんうりぼうだった。それぞれBOXティッシュ二つ分くらいの大きさ。ミアは大喜びだった。
それでも、帰ってひまーたいくつーと戯れていると千秋兄がどこかに連絡してる様子があったんだ。
次の日、隆維たちと学校前まで一緒に行って、朝一そのまま自転車屋に行ってくれって言われたんだ。ついでに今日のお使いメモ付きで。どーしてそこで疑問に思わなかったのか!?
「職業体験にようこそ」
菊花ねえちゃんが笑う。
「他の店開く時間になったら澄にーんとこにお手伝い先、聞きに行けばいいからねー。商店街からは出ないよーに。補導されちゃうぞー」
やられた。
やられたよ!
買い物メモを握り締める。
労働力として売り飛ばされたよ!
買い物を持ってうちに帰る。
「千秋兄!」
「おかえり。いい時間つぶしになったろ?」
否定できない。
「隆維たち学校に送ったらそのまま商店街に行けばお手伝いすること斡旋してもらえるから、暇と退屈は解消されるだろ?」
でもなんか悔しい。
「ホラ、補導もされない。おやつとお昼もどこかで出してもらえたんだろ?」
美味しかった。
「夏休みはじまるまではって澄にぃに頼んでおいたから」
そこまで!?
軽やかに笑う千秋兄に反論ができなかった。
悔しい!!
『うろな担当見習いの覚え書き』
http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/
『うろな2代目業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
高原直澄くんちらがりしておりますー




