涼維と鎮。夏休みに早くならないかなぁ
ヒマだなぁとリビングで転がる。
本もざっくり読んだし、家事も片付けた。
ミアと二時間ぐらいカラオケルームで演奏ごっこもした。
ミアはパッチワークにハマってるから、今は家族分のベッドカバーを作るコトにトライ中だ。枕カバーからにすればイイのにって言ったらセットだって返ってきた。手伝いはにっこり拒否された。内緒らしい。
「涼維、千秋は?」
鎮兄がひょいと覗き込んでくる。
「叔母さんの研究室に来てるおじさんの助手してんじゃね?」
さっきちらっと飲み物と軽食取りに来てたし。
「……そう」
そういえばケンカ中だっけ?
しょほんとしてるけど、千秋兄、落としどころ摸索するって言ってたし、じき普通に戻るんじゃないかなぁ?
少しくらい協力しとくかー。隆維がややこしいから基本ほっとけっていうんだけど、たまにはさ。
「千秋兄が心配して怒るなんていつものことじゃん」
「……心配?」
あれ?
疑問符?
あの怒りの原因が心配だってわかってなかったの?
「千秋兄は心配して怒るんだよ?」
いつだって。
隆維が泳げないってわかったあの夏の日だって、千秋兄は心配してくれていた。
対策を考えてくれていた。千秋兄が考えてくれているコトが、安心だったというコトを後で気がついた。
あー、鎮兄に対しては千秋兄の表現が少し違うか。独占欲強いっていうか、確認したいんだろうなって感じる。鎮兄が答えらしい答えをあげないから怒るんだよなぁ。
うまく伝わらないから怒るんじゃないかってレンも言ってたし。
「千秋兄は、鎮兄には少し違うもんね」
「違う?」
「うん。うまく説明できないけど千秋兄は鎮兄が好きなのはわかるかなぁ」
どこまでが伝えても鎮兄が受け入れられるコトなんだろう?
千秋兄は鎮兄が好き。
そこは疑う要素はないし、逆は、少し悩むんだけどね。
なんで、鎮兄が意外なことを言われたように目を瞬くんだろう?
「え?」
「え? って、千秋兄は俺らやチビ達も好きだけど、一番は鎮兄だろ?」
家族への好きと異性への好きとは好きの種類が違うから、いつか優先順位は変わっても、特別好きなのは変わんないと思うんだけどなぁ。
千秋兄独占欲強いし。
「守れる大事なものはひとつだよな?」
ん?
あー、父さんが言いそうだよね。
「非常時にどうしてもの選択覚悟はしとけってヤツだよね。俺だって現段階なら隆維一択だし。でも、あくまで非常時だよ。鎮兄のことだから区別ついてねーだろ」
そう。生死の危機をこえたりするとその心構えは必要だと思い込んでるようで、時々囁かれる。父さんは昔遭難かましてるからね!
でもあくまでこれは非常時用!
「非常時以外なら、次に守れる、助けられる相手に手を伸ばすのは当然だろ?」
生まれた場所にいつか帰ってみたいノアは人を救える医師を目指す。
できることをたくさん得たいと子供の理論。
それでもそれはかっこよく手を差し伸べたいもの。
妹を守りたい。家族を守りたい。
ノアは、『救われた』と思ってるから『救いたい』世の中に回したい。返したい。『優しい』は世の中に回っていくべきだ。
だから、俺もノアやミアを守りたい。
そばにいてくれて、きっと、救われてきたんだと思うから。
レックスに必要以上に感謝されて、ゴネるコトが子供っぽくて恥ずかしいと感じた。だからその差し伸べられる手は受け手にとって必要以上に大きくもじゃまにもなるんだと気がついた。じゃあ、俺に差し伸べられていたものはと考えるきっかけで。それでもレンに対してはミアの兄としてゴネるけどね!
「鎮兄だって、助けてくれるだろ?」
空ねぇが完全に大丈夫で余力があればさ。
どこか、迷うようにそれでも頷いた鎮兄にホッとする。
飲み込めてるのかどうかは知らないけどね。非常時用思考だってコトだけ埋めれたかな?
「千秋兄だって、鎮兄が嫌いなら本気でわかりたいとか、怒ったりとか、そんな労力使ったりしないと思うよ?」
だから鎮兄からも一歩仲直りの道を……。
「ほんとに千秋は俺が嫌いじゃない?」
なに!?
その不安そうな物言い!
「嫌いなら時間をかけたりしないってば!」
んっもー。
怒ったりとか結構パワーいるんだぞぉ。
なに無駄に疑ってんのさ!
「……、千秋、ゆるしてくれるかなぁ」
あれ?
「千秋兄がキッツいこと言ったんじゃねぇの?」
千秋兄いじめっ子発動で。
「らしくなくて、千秋じゃないみたいで、って」
「それ、千秋兄に言ったんじゃないよね!?」
気がついたら、鎮兄の服を掴んでた。




