商店街へお買い物
涼維に心配なんかしてないと言い切られて少し凹む。
なにを期待してたんだろうなぁ。ため息をかみ殺す。
隆維ほど把握力はないけど、時にカンのいい涼維だ。それでも気がつくことはなかったらしく、ひまーたいくつーという鳴き声はしだいにおなかすいたーと変化していく。
乗っかってごろごろしている涼維に面倒な長芋すりを命じて鶏ガラ出汁の雑炊を作る。
ちょっと目を離した隙に残りごはんすべてを投下していた。
鍋の中の水分を吸い尽くす勢いのごはんの量。雑炊?
「涼維……」
「このぐらい食べれるから大丈夫!」
どんだけ食う気だよ。あと問題が違う。
ブランチ中に予定の来客ソーマが来た。
「一週間、頼むね」
滞在期間、彼の助手をする約束だから。彼の言葉に頷く。
母さんの研究資料室と並びの空き部屋にリネン整えてあるし、問題はないはず。
その空き部屋に案内して、資料室に篭ろうとするソーマをまずは食堂へ。
涼維を紹介して長芋の雑炊もどきとお茶を淹れる。
食費削るとか言ってたしな。
「おにーさん? おじさん?」
「おじさんでイイよ。君のお父さんより年上だからね」
涼維とソーマの会話。先に伯父さんに挨拶してきたのかな。
日系って童顔だからなぁと思う。むこうで知りあったから若くとらえてたらしい。
「最初は間取りと配置確認するから一人にしてね」
言われて頷く。だから、涼維とミアを連れて商店街へ買い物に出ることにした。
じっとりと空気がまとわりつく。
面倒くさいなと思いつつも電車を使う。
見ていれば、窓を叩く雨。
ミアが楽しそうに足を揺らす。空いていなきゃできない。
増えてきた住人に合わせてだろう、ポツポツと増えた高めのマンション系。やはりうろなに多いのは戸建てかとも思うけれど、所々に高めの建物。うろな駅の側となると、集合住宅も増える。
飛鳥ちゃんの住んでるうろ北は二階建ての木造アパートから五階建ての集合住宅まで戸建ても含めて住宅地だ。子供も多い。
天狗仮面も住んでいる。
「雨だー!」
「傘ー」
駅そばのコンビニで買った傘にはしゃぐ二人。
何がそんなに楽しいんだ。
「だって、雨だよ?」
わかんねーよ。
「水滴がころころって傘の上で転がるの!」
それはかわいいか?
嬉しそうに髪を揺らすミアは間違いなくかわいいかな。
「新しい傘が雨弾かなかったら、困るだろー。涼維は水たまりを踏み歩こうとすんな」
子供か。
こんなに天気の悪い日は湿気がじっとりと絡みつく。
すっきり乾いた店内でミアがじっと着物や、小物を見てる。
「美芳さんね、キツい方だけど、嫌いではないわよ?」
柔らかく微笑む紬ちゃんの言葉にホッとする。
「でも、彼女の方針をぶつけられたら逸美、辛いんじゃないかしら?」
心配だわと、瞳を落とす。
「でも、訓練にはなるんじゃないかな」
時々、付き合う予定だから様子も見ててやれるし、繰り返せば慣れるだろうし。そう、教室でびくびくすることもなくなったように。
「何か知ってるの?」
俺が知ってるのは美芳に頼まれた内容くらい。
だけど、話すのは嫌な役をやりきるつもりの美芳の邪魔になる。
「美芳は、逸美が社会適応できるように手を貸すのが義務って考えてるから」
それはもう初対面の頃から。
一緒にうろなに遊びに来いって何度誘ってもこなかったなぁ。
「一二三さんは気にしてないのに?」
それは家族がそれをそういうものと受け入れているように見える。
「一二三さんはマイペースだからなぁ」
逸美の姉である一二三さんは軽い。どちらかというと着飾ってイイ男と歩いていることを好むと逸美が言ってはいた。大学に入ってからホストクラブにハマったとか、そういう話も聞いた。切り捨てるような言いぐさから一二三さんと逸美は仲は良くない。ただ、一二三さんも逸美も口では『仲はいいよ。不干渉なだけ』と言っている。
一二三さんの旦那になった陽光さんも一二三さんを「俺のアクセサリー」とか言っちゃうような人間だ。
ホストでもやってたのかな?
ただ、今はてぶくろを捕獲しようとしゃがみこんでメザシ揺らしてる姿しか脳裏をよぎらない。
「美芳さんを嫌いなわけじゃないの。でもきっと、嫌だなって思うのが止められないの」
不安そうな不満そうな眼差しと指の揺らぎ。
「逸美が異性として、求めているのは紬ちゃんだよ?」
もし、美芳をライバルと考えるのなら大きな間違いだ。
儚げに微笑む紬ちゃんは誤解してるように見えた。
「千秋兄! 買い物全部コンプ! あ! ずりぃひやしあめ飲んでる」
涼維の帰投で会話は立ち消えてしまった。
「今、涼維くんにも入れてあげるわね」
『うろな天狗の仮面の秘密』
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
天狗仮面様お名前ちらり
お借りしました。




