水着コン1
「さぁ、最初の美女を紹介しましょう。エスコートはカラスマント」
審査員への挨拶を終え、さてとばかりにノワールが進行を開始する。
それにあわせて舞台端に向かいカラスマントがマントを翻す。
「此度の美少女は奏嬢。中華料理店クトゥルフの看板娘である」
簡単な説明と共にカラスマントが少女の手をとり誘導する。
会場からは「小学生?」と言う声や「ぉおお」と喜ぶ声でざわめく。
「小学生とは思えぬリンとした高貴なオーラ。あえて飾らぬスクール水着が素材の良さを際立たせる」
ノワールがすらすらと解説を入れる。
「艶やかなる闇夜の髪が白の宝珠を包み込む。麗しのリトルクイーン、奏嬢~」
ステージ中央で、鷹揚にお辞儀をするサイドポニー、スクール水着の小学生。表情は確かに女王に相応しく勝気で自信に満ちている。
奏嬢が満足げにノワールを見やる。
ノワールは優雅にお辞儀する。
「さて、この美女コンはライフセーバーの皆様への激励会でもあります」
ノワールの発言に会場が沸く。
「ですので、クイーン、ぜひお言葉を」
「うむ。我輩の言葉が欲しいとな」
「ぜひ」
カラスマントもマントを捌いて跪く。
二人の黒ずくめにひざまずかれる小学生。
不思議な舞台のノリに会場が静まり返る。
「精進するが良い」
少女がそう発した。
見下すように客席を睥睨し、発された言葉に会場が沈黙に包まれる。
カラスマントの手が小さく払われる。
ごく小さな動き。
それを合図に会場に動きが走る。
『ぉおおーーー』
やばいお兄さんたちのノリではなく、訓練に勤しむ体育会系に受けたらしい。
『リトルクイーン』コールが響く。
もちろん、ひいてる者もいるが小学生相手だ。大概は好意的に反応している。
「そういえばリトルクイーン」
ノワールがノリを切り替え、気さくに奏で嬢に声をかける。
「なんだ?」
「中華料理のクトゥルフって行ったことないけど美味しいの?」
「……禁断のメニューはあるが、美味であるぞ」
「時々クイーンがお手伝いしてるんだよね!」
「うむ。不本意ながら我輩が配膳することもあるぞ」
会場が小さくざわめいている。
「あ、クイーンにはもう恋人がいるんだよね?」
気さくになってからのノワールの行動と言動は親しげで軽い。
「む。違うな。稲荷山考人は我輩の婿だ!」
◇◇◇
「次なる美姫のエスコートはノワール。行くがよい」
芝居がかった口調と共にカラスマントのマントがばさりと大きく翻る。
舞台端にノワールに連れてこられた流れる黒髪の美しい少女。
おどおどと不安げに周囲を見回し、観客席を見てビクッと体にまとったバスタオルの端を握り締める小柄な少女だった。
「たおる?」
観客席で誰ともなく呟きがこぼれる。
「水着コンだろ?」「ぇ? なんで?」
否定的に聞こえる言葉が少女の耳に届き、少女の足をすくませる。
大きな瞳にはじわりと涙が膨れ上がる熱が広がる。
「うろな高校学園生活環境部、通称ボランティア部。別名駄弁り部の蓮華ちゃんをご紹介します」
ノワールが少女を連れて舞台の中央へと進む。
「ボランティア部。ライフセーバー諸兄の大きな意味での後輩と言うわけだ。人を助け、人のために活動する。それを良しとする少女である」
大きくマントを広げ、カラスマントが小柄な少女を指し示す。
「小さな体でありながら同じ部の同胞と小学校のプール清掃、そして幼き者の勉学の手伝いとその活躍は幅広い、しかし、彼らの活動に対する見返り。それは感謝の言葉と笑顔である」
熱弁をふるうカラスマント。
そう、この日ココに集まっているのは観光客や水着のねーちゃんをただ見に来ただけの者も多いが、何よりもココをこの夏の拠点に活動していこうと言うボランティアの集まりなのだ。
否定的空気は好意的な空気で覆い隠されてゆく。
「がんばれー、蓮華ちゃーん」
彼らの中でおびえておどおどしている少女が場違いな少女から懸命に自分たちを応援しに来てくれた健気な少女に摩り替わる。
ぱさりとバスタオルがノワールの手に落ちる。
観客たちに披露されたのは今までのアレは高度な焦らしテクだったのかと突っ込みたくなるようなボディラインだった。
平均からしても明らかに小柄であろう少女は平均以上であろうバストの持ち主であった。
「可憐にして善良なる少女が皆様のために選んだハレの衣装は白のビキニ。とてもお似合いです」
ノワールは口上とともにバスタオルを手にかけて少女に一礼する。
イメージはウェイターかバトラーである。
「あ、あ、あの。あ、ありがとうございます」
おどおどとどもりながらお礼を言って観客席に向き直る。
人の視線にきょどりつつも深呼吸。そしてその行動がより男どもの注目を集めていることに蓮華は気がつかない。
「夏の海の安全をお願いします!」
「任せとけ!!」
観客席からの返事は力強かった。
狐坂奏嬢
日向蓮華嬢
奮闘。




