涼維、千秋にじゃれてみる
「千秋あーにー」
空調の効いた部屋でくつろぐ千秋兄に声をかける。
ソファーでダレながら何か読んでる。でも、集中しているわけでもない。
「んー?」
「ひーまー」
ていと体重をかけてもたれる。重いだろ〜。
「掃除してろ」
邪険に押しのけられながら言われる。でも軽くだからまだじゃれてて大丈夫。
夏祭りで澄にーちゃんにじゃれてたのを見て妬いてるわけじゃないから。
「終わったー。洗濯も室内干ししたー。今日の分の予習復習も終わったー。それに隆維たち帰ってきたらまたやるし」
用事は済んでる。天気は良くないし、退屈なんだ。
「客待ちなんだから出かけないぞ?」
話を聞いてくれそうな気配に何気なさを装い、聞こうと思う。
「ん〜。鎮兄と揉めてる?」
最近揉めるとごはん作ってくれないからわかりやすい。
「拗れてるというか、破綻したんじゃね? なんとか落ち着けるとこに軟着陸させときたいけど、どーなるかなぁ」
「千秋兄!」
破綻って!?
「ん、ん。なんとか落としどころ探すって、碧たちの受験に影響出てもなんだしね」
「ならいいけどさぁ」
対応策考える気あるんなら大丈夫だよね。
知るかって対応じゃない。
「受験はうまくいくといいよな」
「うん!」
柔らかく言われて頷く。頑張れ碧ちゃん!
「涼維は進路どうするつもりなんだ?」
「一貫教育だから、大学は日本に戻るつもりだけど、そのままかなぁ。ノアがしっかり勉強進めたいからって」
流れ的に振られた感じだから素直に回答。ホントはサクッと隆維と一緒がいい。寮生活で友達は出来たけど。
「その先だよ」
「冒険家か、医療系。母さんの実家は病院だし、やっぱり気になるかなぁ」
ノアが目指している影響もあるかな。
「そっか」
他にも親戚のにーちゃん達の会話は八割医療系だったりする影響だと思う。洗脳されてる!?
「うん。ラフのあとを継ぐつもりな隆維みたいに多才には俺はなれないけどさ、絞ってはじめれば、それなりにはいけると思うんだ。わかる?」
隆維は多才。
できることはより出来るように、出来ないことは出来る努力をするだけだろって隆維は言うけど、簡単には出来ないと思う。
「ちゃんと、そういきたければいけるよ」
目標を集中的に立ててならいけるかもって思うんだ。
「うん! 千秋兄は?」
「……俺?」
「料理とか事務業務?」
千秋兄は料理とかうまいし、今は事務仕事のバイトも頑張ってる。そーいえば、千秋兄のしたいことって聞いたことなかったかも。
「まぁ、そっち系かな。したいって思ってることは一番を目指さないものだからね」
「一番?」
「やるからには一度は一番っていうか、高いところを目指せるものがいいだろう?」
そっか。千秋兄負けず嫌いだもんなぁ。しかも凝り症!
「あ! わかる! いつか、俺には行けないとこはないぜとか言いたい!」
俺だって負けてばかりはイヤだ。少しは隆維を越えれるものも欲しい。それで隆維が離れるならいらないけどね。
「それ、ちょっと心配になるな」
苦笑される。
「そう?」
心配?
「ああ」
撫でられて、心配されるって言うのはくすぐったくて心地いい。ピリッとした空気が弛んだ気もする。
「でも、千秋兄なら料理とかで一番目指せたんじゃないの? お料理上手」
千秋兄の作るごはんもおやつも大好き。
我が家の味だよね。
「あれは数をこなしてる技術だよ。誰だって頑張れば辿り着ける地点に過ぎないよ。俺はだから、目指す気なんてなかったんだ。追いつけないとわかってたから。そこで、目指すものから外れたんだ。つまりは、はじめっからな」
誰だってってコトはないような気がする。鈴音ちゃんとかさ。
「追いつけない?」
「伯父さんとか、いろいろー。たぶん、隆維の方が数こなせば俺よりいいセンいくしね。才能って言葉はさー、嫌いだけど確かにあるからさ」
とーさんかぁ。
それでも最初から切ってたんなら料理習い続けないと思うのになぁ。
「嫌いなの?」
千秋兄に料理の才能がないとは思わない。とーさんだって技術が全てじゃないって言ってる。
「才能ってさ、活かしてこそだろう? 全てじゃないし、一部でしかない。挫折するっていうのはさ、それ以上、それと向き合うことから逃げるってことだろ?」
「ん? そう、かなぁ」
間違ってるとも正しいともなんとなく認めにくい。
「ああ、俺の考え方ね」
「んー」
うまく納得出来ない。
「ほら、努力して継続することができるのだって才能だと思うんだ」
「おお。努力っていう才能!」
「そそ。努力とか、好きって名前の才能な。どんな天性の才能があっても活かされないなら精度は落ちていくと思うな。だから、涼維がなりたいならなんだってなれるさ。やりたいことのための道は見えてるんだろ?」
そこを目指す努力を続けない筈もないよね。
「うん! がんばる! っで、千秋兄のしたいことって?」
俺は冒険家なお医者さん!
がんばるぞー!
「人助け、かなぁ」
おお!
「人助けはいいね」
カッコいい。
「俺に出来るかどうかわからないけどね」
千秋兄なら出来るって。
「なんで?」
出来ないかもなんて思うの?
そんな要素ないよね?
「鎮とですらうまくやれないし、隆維や涼維が困ってても助けてやれないんだからさ」
え?
「……なにが? え? よくわかんないんだけど?」
確かに鎮兄は難しいと思うけど、アレは特殊系だよ?
みんなで支えれば、サポートしていけばいいよね? 空ねぇだっているよ?
「心配ばかりかけてるだろ?」
「別に心配なんかしてないよ?」
千秋兄いるし、隆維いるし、うまくいくよ?
「……そっか」
「うん。千秋兄に心配なんかいらないでしょ」
千秋兄立ち直り早いし、なんとかするって言ったらなんとかするもんな!
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
『うろな担当見習いの覚え書き』
http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/
『うろな2代目業務日誌』
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高原直澄さん
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃんお名前ちらりと
お借りしてます。




