2015夏祭り花火も終わる帰り道
「受験生だよな?」
と澄にーちゃんに呆れられつつ出店の手伝い。
このくらいの気晴らしで落ちるような学力じゃ困るってもんだ。
狙う高校はうろ高だけど、一応私立も受けはする。碧ちゃん巻き込んでな!
どっちにしろ、過保護に涼維が用事を済ますから特にすることはないしなぁ。
昨夜、千秋兄が帰ってこなかったせいで鎮兄がイラついてるし、澄にーちゃんが「どうした?」って聞いてくるから「千秋兄が無断外泊」とだけバラしとく。
ただ、無断外泊っぷりは鎮兄が責めれるポイントじゃないんだよね。家出常習だったから。
ウチには今とーさんも俺もワカちゃんもいるしなぁ。千秋兄が外泊くらいはいーんじゃないかなって思ってる。
祥晴と喋ってると焼きそばを英にーちゃんが差し入れてくれた。横にいるのはマリージア。
ずっと昔の誘拐騒ぎの時、彼女の弟は無言の帰宅になった。
俺としてはそこも踏まえてミリセントとは距離を置くつもりで。
「久しぶりです。ミリセント」
横から嬉しそうにミリセントを呼ぶ声。
涼維?
ミリセントは穏やかに応じているけど、それはどこか胡散臭い。
涼維、悪趣味?
ぼーっと聞いてるとミリセントべた褒めな涼維に周りが微妙引いてる。
わかんなくもないけど、毒同然のミリセント料理を羨むのはやめて?
昼時に一旦帰って涼む。
千秋兄もシャワー浴びてリビングのソファーに寝そべりつつ手にした冊子をめくってる。
「夏祭り行かないの?」
「ん? 行くよ。エシレは夏祭りとかいったことないって言ってたしね」
チラッと見えた冊子の中はスクールの体験会とか集中講座とかの案内。
美芳ねーちゃんってそっち系の回し者?
「どんな人!?」
「んー。タイミングが合えば紹介するよ。先入観はない方が良いだろ?」
そうかな? とは思うけど、千秋兄を立てとく。
今、押しちゃいけない気がした。
「鎮兄とどーするの?」
「お互いに不干渉がイイかな。空ねぇのためにがんばってるのに水差すようなマネはしたくないからね」
ごろりとクッションを抱えつつ、息を吐く。
「俺がなんか言ったら揉めるし、俺も鎮の反応でカッとしちゃいやすいしさ」
その言葉を聞いて自覚はあったんだと思う。
「お前らも余計な心配するだろ? でも、隆維は身長、あんまこだわってやんなよ?」
うっ。
たかが二センチされど二センチ。
兄として抜かれたこの身長差は気になるところ!
「ところで首筋キスマーク?」
仕返し気分でふったら、むっちゃ慌てた。
「うっそー」
「隆維!!」
赤くなりながら怒っても怖くないしー。
祭り会場に戻ったのはビンゴがはじまるちょっと前。
果菜ちゃんと美果ちゃんが黒の似合うねーさんと一緒にビンゴカードを見つめていた。仲よさげだ。その側で愛菜は見かけないオッちゃんとにーさんの微妙ライン、つまり信にーと同年代ぽい人を二人案内していた。
「あ。あっちの人はサミュエルさんだ」
涼維が見覚えがあると呼びかければ、彼は軽く手を振ってくれた。たしか千秋兄の友達か。
ビンゴを楽しみながら時々周囲を見回す。
リンゴ飴を揺らす雪姫ねーちゃんとそれを甘い表情で見つめる賀川のにーちゃんを発見、雪姫ねーちゃんが『アキさん』と呼んでいるのを時々聞く。
「雪姫ねーちゃん発見!」
声をかけたら嬉しそうに笑ってくれる。
「元気ー?」
少しだけ喋って「デートの邪魔ごめんねー」とにーちゃんを冷やかしておく。
公も来てたから一緒に軽く見て回ったりしてだべる。休憩は店番をしながら。
千秋兄が田中センセをハグして笑顔全開と珍しい表情を見せたのは婚約指輪に反応してだった。
澄にーちゃんに「おめでとう!」とはしゃいでる姿はちょっと意外。
すでに先の話も決まってるんでしょう? とばかりに尋ねて「まだ」という答えをもらって恥ずかしそうにじゃれていた。さりげなく『澄にぃにマテができるとは思ってなかったから』って言ってる。あれ誰?
ま、俺たちの前では兄貴ぶろうって気が鎮兄だけじゃなく、千秋兄にもあるってことだよなぁとは思う。四年離れてるとそんなもんかなとも思わなくもない。
俺も芹香とか、みあやのあの前では兄貴らしくありたいしなぁ。
「隆維、涼維」
ボーっと思考しながら眺めていたら、眺めてた対象が声をかけてきた。
「千秋兄?」
横に手を引いて連れてるのはきょういっちゃんと同年代なんだろうなぁっていうおにーさん。
「会いたがってたろ? 吉羽エシレ。とりあえず一夏のお付き合い? んで、エシレ、おとーとたち。隆維と涼維、ね」
「吉羽、エシレです。仲良く、してくださいね」
軽い口調の千秋兄に少し緊張した印象のあるエシレにーちゃんは、発言を確認しながらのように紡いで手を差し出してくる。片手は不安そうに千秋兄の袖を掴んでいる。
「よろしくー。隆維ねー。千秋兄のどこがよかったの?」
外見イイし悪くはないと思うけどさ、日本に生きてて男にストレートにはしるってなんか珍しい。
「出会って、私にとって世界が広がったと感じたんです。知らない世界に触れれたというか、千秋さんといれば、もっと世界が見れるような気がして」
はにかんで、エシレにーちゃんは笑った。
花火の時間は芹香が夏の間にねずみ花火をしたいと言い出したりミラが複数本にまとめて点火しようとするのを尋歌ねーちゃんが亨にーちゃんと一緒に止めてくれたりしてた。煽っちゃダメだろ涼維。
尋歌ねーちゃんの浴衣は水色に白い金魚。ほんとは亨にーちゃんがほのちゃんにもらったやつらしい。
ほのちゃんの難点は亨にーちゃんを『姪』扱いでいじる事だよなー。そこが親しみやすさも感じさせるんだけどね。冗談通じるって事だから。
愛菜と一緒にいるもう一人についても少し教えてもらった。
彼は『一守想麻』さん。とりあえず聞いた名前を思いながら、走り回るちびっ子を目で追う。
「渚! どれが一番綺麗なのだ!?」
一守琉伊。隠し子か。隠し親か?
そんなことを考えながらイチャラブカップル多いなと周囲を見回す。
鎮兄が空ねぇの隙をついてキスしてるのは日常だよね。目は逸らしとく。
賀川のにーちゃんも雪姫ねーちゃんとどこまで進展してるのかなぁ?
ん?
設営に店番、子守りと忙しく立ち働いていた合田のにーちゃんが萌ねーちゃんに労われていた。
イメージ的に褒められて照れて強がって見せたところ、萌ねーちゃんがちょっと大胆にほっぺキスか!
きょろりと見れば、鹿島にーちゃんの方もいい雰囲気だった。
町長さんも秋原さんといい雰囲気だし。あそこもどう進展してるのかなぁ。
でもさ、積極的な横山を必死にかわしてる木下先生はタイヘンだよなぁ。
千秋兄はエシレにーちゃんの手を支えて花火をもたせてた。どーゆープレイ?
エシレにーちゃんを紹介された芹香は偉そうに千秋兄に浮気しちゃダメよとか言ってるし。
そっと雪姫ねーちゃんが賀川のにーちゃんに寄り添って帰路につくというイイ雰囲気を醸してる。
「うら、帰っぞ」
千秋兄が頭を抑えてくる。
「恋人と夜時間は?」
「エシレは駐車場にお迎え来てるからそこまで一緒」
エシレにーちゃんがこくんと頷く。
「じゃ! 一緒に行きましょ!」
芹香が偉そうだ。先を行くちびっ子達を見守りつつ後ろを歩く千秋兄とエシレにーちゃん。
話題は夏休みというか、どう一緒にいられるか。
「観光に付き合う約束と助手をするって約束があるから、そっち優先だけどね。エシレも予定はあるだろ?」
「千秋さんと過ごす時間の方が大事です」
「千秋兄が忙しくしてる時は私が遊んであげてもイイわ!」
芹香、なぜそこでお前が上から目線だ。
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
雪姫ちゃん、賀川さん
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
『うろな担当見習いの覚え書き』
http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/
『うろな2代目業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/
果菜ちゃん美果ちゃん 田中先生 直澄さん
鹿島兄妹、合田君、木下先生。
『ワルい奴ら』
http://book1.adouzi.eu.org/n9177by/
葵井さん
『うろな町』発展記録』
http://book1.adouzi.eu.org/n6456bq/
町長さんと秋原さん
『うろな高校駄弁り部Ⅱ』
http://book1.adouzi.eu.org/n1250cb/
『うろな高校駄弁り部』
http://book1.adouzi.eu.org/n7660bq/
横山さん
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃんと渚ちゃん
お借りしてます。




