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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
777/823

2015夏祭り 花火

 手渡された花火。

 したことがないと伝えた私に彼は微笑む。

 私の知らない誰かに笑いかけて、抱きしめて、うれしそうに笑う。



 あの笑顔が大嫌い。




 ああ。嫌いだったんだと思う。

 弟が父様に向けるあの笑顔が。

 私に向けられることのない笑顔。

「人に向けないようにね」

 花火を持たせて火をつける。そんな何気ない動作。

 周りで広がる喧騒はどこか遠い。

 信頼した眼差しを向けてくる弟。甘えられる兄のような存在。よい友達。特別で大切な人たち。それが彼の中で薄っぺらい紙のように脆いものなのが心地よい。きっと角砂糖が水を含んで壊れるぐらいに簡単に壊れる世界。

 勢いよく緑の炎が噴き出す。

「振り回さないで」

 そっと重ねられた手が暖かくて、思ってもいない色だった火に見惚れてたはずなのに気が散る。

 暑いはずなのにその体温が心地よくて不思議だった。

「幸せでいないでください」

 小さな呟き。

「花火、きれいだろう?」

 見上げれば笑顔。

 この笑顔はウソ。

「そうですね」

 とても嘘つき。

 火の勢いは弱まって焦げた残骸は汚らしいだけ。

 花火の火を見るために薄暗くなった場所。

 嘘でそこにいてくれる。

「きれいなのは好き?」

「消えてしまうと悲しいですね」

「まだ、熱いから触っちゃだめだよ」

 優しくされるのは嬉しい。

 会話なんて嘘でも嬉しく思う。

 残骸を用意されたバケツに落とす。

 じゅうっと音がした。

 甘やかしてくれるのも優しいのも全部うそ。

「捕まっちゃだめだよ」

 次の花火に火をつける。

「私が、つかまえてるんですよ」

 火花がパチパチと弾けていく。

 逃がしたりしません。

 幸せになんて笑わないでください。

「それが幸せ?」

「わかりません」

 嘘つきの笑顔。

 私は幸せなんかわかりません。

 楽しいのもわかりません。

 家族がいなくならなければ何も求められないでいられたんです。

「嫌いです」

「そっか」

 家族がいなくなったのは彼のせいじゃない。

 するべきことは家族が決めてくれた。

 失われてこと細かく指示する人はいなくなった。

 どうしたらいいかわからない中で『責めてもいいもの』を初めて与えられた。

 私にとってあなたは責めて虐げるべきもので。それ以外でなくて。

 幸せに笑っていることなんか許してはいけなくて。

 あなたを責めることで家族を嫌っていた、恨んでいた自分を見つける。それを理由にあなたをより責め苛む方向に動いてしまうのはきっと八つ当たり。

 そしてあなたもそれを否定したりしない。

 私の知るあなたは多分、本来のあなたじゃない嘘のあなた。

 でも同時にこの町でのあなたこそが嘘の姿なのかもしれない。

 私は知らないし、わからない。

 理解したいかどうかもわからない。

 そうあるのが正しいと教えられればそう動きふるまうべきでしょう?

 私はあなたを支配しているように振る舞い、あなたは従っているかのようにふるまう。

 聞かなくてもいいはずの望みを聞くのは優越感と支配してる感をくすぐられる。

 それはとても怖くて心細い。

 それでも思わなくはない。

『幸せ』を理解していない私が『幸せに微笑む』ことを許せないと言葉を発する滑稽さ。

「線香花火、やってみる?」

 赤紫の紙縒り。細く頼りないソレ。

 あなたの差し出すはじめての行為。

 好きだと告白すること。

 遊園地で遊ぶこと。

 一緒に弾ける火花を見ること。

 貴方だれかの意思を無視したわがままを言うこと。



 それに応えるあなたはきっとその場限りのウソだけで。





 真っ赤な塊はぽとりと簡単に落ちてしまった。








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