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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
776/823

2015夏祭り 夕方のヒトコマ

「お久しぶりです。田中先生」

 夏祭り会場である公園についてエシレをとも思ったら、田中先生を見かけたからまずはご挨拶と声をかけた。

 視線が指にいく。薬指。そこには指輪。

 マリッジリングじゃなさそうだけど、……キョロっと澄にぃを探す。たぶん、目の届く範囲にいるんじゃないかな?

 いた。

「千秋くんは新しい生活には慣れた?」

 田中先生の穏やかな声。

「あ、はい」

 にっこり笑いかけて、そっと手を取ってみる。そこに輝くのは婚約指輪だろう。

「おめでとうございます。お式は、いつ頃予定なんですか?」

 少し驚かれたけど、その表情ははにかむようで、年上の人だけど、初々しく可愛らしいと思える。

 ちょっと、ドキドキする。

「誰も、教えてくれてなくて、驚きました。えっと、澄にぃですよね? お相手」

 うわー。昨日も誰も教えてくれなかった。サプライズ?

 チラチラ澄にぃを見ると怪訝そうだった表情が田中先生の手をとった俺の手が指輪を示していることに気がついて表情が得意げに変わる。

 よし!

 はずしてない!

 情報ゲットできてないうちに破綻してますとか、相手違うとか言われたらすっげー気まずいよね。

 セーフ!

 改めて、「おめでとうございます」と言ってそのまま軽く抱きしめる。浴衣を着崩すような事がないように気は使う。

 ずっと、澄にぃは先生が好きだったから。じりじり待ってようやく確約なんだって思うとすっげー嬉しい。

 寄ってきた澄にぃにハグしておめでとう言って、「式いつ?」って聞くとまだ先って笑われた。

 えー、だって澄にぃが待つなんて思わなかったんだよー。決めたらサクサクいくか、清水先生と時期合わせるかぐらい? そこまでベタなことはしない?

 先走りし過ぎたみたいな気分で照れ隠しに少しだけ澄にぃにじゃれてから離れる。じゃれ過ぎても恥ずかしいしね。

 ささっと退散。はなれた場所、澄にぃと田中先生を取り囲む学生の群れ。指輪を贈ったのはつい最近だったのか、お祝いの言葉や、指輪見せて〜って声が聞こえてくる。

 内緒だったってことはないと思うんだ。

 澄にぃが田中先生ラブなのは結構知られてるよね。

 菊花ちゃんも紬ちゃんも教えてくれなかった。知らないってことはないだろうになぁ。聞かなかったけどさ。悪い方に考えそうな思考を払って、視線を上げるとエシレがいた。

 そのむこうに鎮がいた。

 エシレの瞳に不安そうな揺れが見えた。

 その向こうにいる鎮が少し不機嫌そうでイヤな気分。

 せっかくお祝い気分で気持ちよかったのに。気が重くなりそうで。

 気分の揺れが激しすぎて気分が悪い。

 認めれば、楽になる。

 でも認めない。

 エシレはこわくないし、鎮もこわくない。

 だいじょうぶ。

 へたり込んだりしない。嘘を重なれば気にならなくなる。

「エシレ!」

 アイスブルーの目が驚いてパチパチと瞬く。

 手を取ってそのまま鎮の方へと急ぐ。

「エシレ、コレ、俺の兄ね」

「……千秋さんのおにいさま」

 なぜ紹介されたのかわからないという表情で不可解そうに見上げてくる。

「で、一夏お試しで付き合うことになったエシレね。恭君の学校の友達で、ついでに言えば、むこうでの集まりで一度会ったことを覚えててくれたんだー」

「お試し……、集まり……」

 疑問を突きつけられる前に情報とともに紹介しとく。

「お互いにどうなるかなんかわからないだろ?」

「あ、私は、千秋さんが、いいです」

「そう? ありがとう」

「特別になれなくてもいつか、少しでも他と違う特別になりたいです。あの……」

 ある意味特別だと思うよ?

「ん?」

「さっきの方々はどなたですか? 抱き合ってました」

 いや、俺が一方的に抱きついてたんだけど、お祝いに。

 ジィっと見上げられる。背は低めだよね。エシレ。

「女の人は去年までお世話になってた高校の先生。澄にぃ、彼は幼馴染みで兄のような人でさ、薬指のリングについ喜び込み上げてって感じ?」

 ちょっと早合点し過ぎた気はするけどさ。

「ハグ、ズルい……」

 ……は?

「鎮?」

 なぜそこから不満があがる?

 反応しないから放置してたのに。

「俺にはしてくんない……」

 なぜ、拗ねる。

「……空ねぇにしてろ。婚約とか結婚とかに発展するなら空ねぇにお祝いハグすっから」

「そこまで!?」

 驚く鎮の姿にちょっと笑ってエシレが頭を下げる。

「吉羽エシレです。よろしくお願いします。おにいさま」

「……よろしく。鎮だ」

「空ねぇは?」

 そばにいるかと思ったらいなかった。

 表情が柔らかくほどける。

「空なら、舞台を手伝ってる」

「そっか。じゃあ、むこうでこっちを興味深そうに見つめてくる弟どもに俺はエシレを紹介してくるよ。行こう。エシレ」

 じっと鎮を見ていたエシレを引いて軽く抱きしめる。

「行こう」

「はい……」

 見上げてくる眼差しはあどけなくも見える不思議そうな色。

 抱き寄せればすり寄ってくる。

「おにいさま、幸せそうですね」

 人ごみを歩きながら特に感情を含ませない言葉。


「空ねぇは幸せに笑ってるのがかわいい人だからね。隆維! 涼維!」


 




『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

青空空ちゃん


『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

『うろな担当見習いの覚え書き』

http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/

『うろな2代目業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/ 

高原直澄君、田中先生。お借りいたしました

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