2015夏祭り午前中

「ため息が出ますよねぇ」

　チョコバナナについたスナック菓子を剥ぎ取りながら恭くんが呟く。

「なにが？」

「浴衣女子は目の保養です」

　恭くんは外見重視。心が伴ってなくとも外見が良ければイケます。とよくわかりたくないことを言う。そして、空さんの前では言いませんよと付け足すんだ。とりあえずそれには半径五十メートルもやめて。と言っておく。不満そうなのはスルー。

　ミホちゃんの好きなとこは？　と聞けば、迷わず、外見と頭の悪いとこです。と返ってくる。本人にも言うんだろうか？

　機嫌のイイ視線の先は店番を手伝う隆維のそばに張り付くミリセントちゃん。抑えつけられる浴衣の上からもボリュームは察せるってことだろう。そしてその横には緊張ぎみの涼維。

　じっと注目されてるんだけど、気づいてないなー。まわりからの『ああ、いつものか』と言わんばかりのなまあったかい眼差しに。

　確かに黒髪の彼女は浴衣が似合う。

　洋装風の浴衣じゃなくてきちんと和風の浴衣。

　着崩して着るタイプの浴衣より和風な浴衣がうろなでは多い。似合う女性もだけど。

　ちびっこはそうでもないけどね。ひらひらふりふりが好きな女の子はやっぱり多いみたいだから。

「お好み焼き食べるから食券ちょうだい！」

　にゅっと伸びてくる手は芹香だ。

　濃紺に青の朝顔が咲いてるちょっと地味系だ。ひらひらふりふりとは無縁なしっとり浴衣。

　我が家は食券管理はまとめて購入後分配方式。とりあえず年長者の俺が管理中。いちゃつきタイムとりたいんなら言ってねと隆維涼維には言われてる。町長さんによる挨拶も終わったのに千秋は来る気配もない。

　隆維達のタイミングでもまだ帰ってなかったらしいし、開会式前に鈴音ちゃんと待ち合わせてたらしい芹香が出た時にもまだ帰ってなかったらしい。

　舞台ではカラオケ大会や漫才とか出し物が出てる。

「ひとり分ひとりで食べれるのか？」

「ミアちゃんもいるしべるべるもいるんだから大丈夫よ！　おおければ、ミラがいるでしょ。あ、あのね、ももちゃんとおーやくんも来てたよー。ちっこくてかわい〜」

　きゃあきゃあとはしゃいで喋って買っておいた食券を受け取ると屋台に並ばせていたミアの元へと走っていく。

　町役場のおにーさんたちのやってるコーナーは既に恒例人気コーナー。「たっきー！　特別美味しいの！」とか芹香、全部一緒だろ？

　ミアの浴衣はピンクで白い百合の花柄。二人とも髪をポニーテールにまとめてる。リボンは浴衣と同じ色。

　見回すと商店街の喫茶店クラージュでウェイトレスをしてる美月さんが鹿島さんの髪を掴んで離さない桃香ちゃんをなだめていた。……なんか、若夫婦？　桃香ちゃんも楽しそうにはしゃいでるしなぁ。

　いや、うん、清水先生は若いけどさ。

「家族って感じですねぇ」

　片手で割り箸をくるりと弄びながら恭くんが呟く。

　うん。

　なんか、家族の理想図っぽい感じに見えるんだ。

「恭くんたちのご両親も？」

「うちの両親ですかー。お互いが一番でしたけど、母は母なりに。父は父なりに愛情は注いでくれてますね。たぶん、成人するまでは母からのサプライズプレゼントは届くでしょうから、愛されていなかったとは、言えないでしょう？」

　いいなって思う。

　亡くなってからも届く贈り物。生まれる前から大きくなるまでを考えてくれてたってことだろう？

「鎮さんは空さんとあーゆー空気を出せる家庭を築けますか？」

　え？

　なに、その不意打ち。

　いや、それ以前に自分の子供が想像つかない。

「そうですね、姪とか甥とかを可愛がる感じででも」

　空の子供。

　きっとかわいいんだと思う。

「あ。ミホさん、浴衣イイですねー」

　ミホちゃんと喋ってるのは総督とつるんでることの多いせっちゃん。こっちを見て、手を、ああ。恭くんにだ。

「きょんきょん、あっついね〜」

「せっちゃん。水分補給はちゃんとね」

「はぁい」

　どっちが年上だと突っ込みたいけど、これがせっちゃんに対するデフォルト対応らしい。

　そういっちゃんもそーだもんな。

「鈴音さんは？」

「りゅーちゃんのお手伝いー」

　赤い浴衣のツインテール。鈴音ちゃんがお店番中の隆維達に差し入れを持って行っていた。

「じゃあ、鎮さん、僕もミホさんに貢いできますね」

　見送って、息を吐く。

　空を見上げれば曇り空。

　どこか湿気は強いけれど、何とか天候は持ちそうでほっとする。