グループデート 日生千秋視点。
ゆっくりとのぼっていく観覧車。
エシレはさっきまで窓に張り付いてはしゃいでた。
重みを感じて視線を向ければ、うとうとと微睡んでる?
疲れたんだろうな。
絶叫系にホラーやトリック系のハウス。
休憩エリアでソフトクリームを買って差し出せば、食べ方に悩んでたり。
昼は他の連中と合流、持ち寄った弁当を広げる。
「健ったら絶叫系ダメなんだから!」
きゃあきゃあと楽しげに菊花ちゃんがはしゃぐ。
「トリックハウスでは泣きそうだったのは菊花だろう?」
仄さんに指摘されて菊花ちゃんがふてくされたり。
「だってなんか気持ち悪くなったんだもん!」
「エシレちゃんは楽しかった?」
紬ちゃんに声をかけられてエシレが恥ずかしそうに頬を赤らめる。
俺としては絶叫系連続はキツかったとだけ言っておこう。
「楽しいです」
その表情が本当に嬉しそうで誘ってもらってよかったんだろうなぁと思う。
エシレは全部、はじめてだったと笑う。マスコットを見て少し怯えたり。
なにも知らなかった。
「中に人が入ってるのよ」
と菊花ちゃんが得意げに告げ、「ファッションですか?」と瞬きを繰り返していた。
聞きつけたらしいマスコットが寄ってきて菊花ちゃんに不満を伝える動きを繰り返す。
健が笑いながら「中に人などいない」と言えば『その通り!』と健の言葉を肯定し威張ってみせる。そのあたりで緊張が解けたらしいエシレが笑って、そのままツーショット写真を撮ってもらってはしゃいでた。
ああ。それは疲れるか。
炭酸ジュースは苦手だったり、フライドポテトやポップコーンの手づかみに躊躇したり。食べ歩きは出来なくてチュロスを持て余してた。
慣れないモノを食べて後でお腹を壊さないか少し心配だ。
「千秋さん」
胸元にもたれて見つめてくるアイスブルー。
「キスしてください」
そっと唇を重ねる。
首に回される腕。
「高いですよね。飛び降りたら結果は見えてますよね」
耳元に囁かれて、目を開ければ視線を合わせて微笑まれる。
「ダメだよ」
「そうですね。ごめんなさい」
「わかってればいいけど」
「簡単に手放したりしませんから」
すりりと胸元に擦り寄る感触と温もり。下りに傾く観覧車。外なんか観てなくてただ、密室。
「頼みがあるんだけど」
「私が聞く必要があるんですか?」
まっすぐな眼差しは不思議そうで。
「お願いだから……」
「聞くだけでいいですよね。千秋さんのお願いだから聞いてあげます」
にこりと笑顔。
「あとで、ですよ。待てますよね」
「……わかってるよ。ありがとう」
「はい」
ふわりと唇に温もり。エシレの感触。
下りると逸美が心配そうに観覧車を見上げている。健は興味なさそう。飛鳥ちゃん帰ったからなぁ。
「菊花ちゃん?」
「みよしさんって人が紬ちゃん連れて観覧車に。逸美んがパニクっちゃって」
美芳。
木野江のおじさんの再婚相手の連れ子。
旅館のお手伝いをよくしてる子だったなと覚えている。
遊ぼうと誘っても忙しいって五回に三回断られる。
嫌いじゃなかった。懐かしいな。
「千秋! どうしよう! 美芳、紬ちゃんにヒドイこと言ってるかも……。義兄さんにも『女をアクセ扱いするヒモ上がりの屑』って、初対面で言っちゃってたりしたし」
えっと、美芳さん、きっつい。あと、逸美ここで言うな。
「僕や、一二三姉さんのこと嫌いだから……」
あー、もー。
嫌われてねぇのに。つか、中学までは嫌われてなかったはずだ。
「逸美、逸美。落ち着いて」
わたわたしてるから腕をとって肩を軽く叩いて落ち着かせる。
「だって、千秋……」
「美芳はただ単にひっじょーにざっくり言ってくるだけで、違うんならちゃんと認めて訂正するから。紬ちゃんだって対応力は柔軟な方だしさ、だいじょうぶだいじょ」
「相変わらず、甘やかしてるね」
観覧車の降り口から出てきた女性二人組みの片方が軽やかに俺の言葉を遮った。
「久しぶり」
「おう」
「そーいう格好してると女みたいだね」
「女だ。わかってて言ってんじゃねぇ」
「紬ちゃんに何を」
おそらく勇気を振り絞って逸美が美芳に言葉をかける。
「本人に聞けば? あたしは言わない。逸美の夏の予定はあたしが基本管理するけどね」
言わせずに畳み掛けることで逸美の言葉と思考を封じる。視線は既に俺や逸美から外れている。
「で、はじめまして。若槻美芳っていうの。有坂、君だよね?」
上から下まであからさまに観察された健は不快そうに睨みかえした。
俺が健を抑えようとする行動は沈黙の中『勝負に口出すな』と言う美芳の視線により無力化させられた。
がんばれ。健。




