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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
765/823

グループデート 木野江逸美視点。

 花壇に咲く花。

 高めの樹木が広げる木陰。

 悲鳴と歓声と共に轟音が流れていく。

「ココは人混みからはずれてるから大丈夫でしょう?」

 紬ちゃんが売店で買ってきたらしいドリンクを差し出してくれる。

 人の流れは確かにない。それなりに人はいるとはいえ、平日の遊園地だし、乗り場には遠い。ただし、園内最長を誇るジェットコースターのコース脇だから定期的に絶叫が聞こえる。

「乗り物、いいの?」

「ええ。午後からしばらくはみんなで移動する気もするし。その時にね」

 会話を続けたいのに伝えるべき言葉が浮かばない。

「千秋くんのこと心配?」

 千秋……。

 今は不安定感が強いと思う。

 そこは確かに心配で。

 告白されて了承するなんてたまにしていたのを知っている。ただ、続かないけどね。

 ただ、その相手を他のメンバーに関係させることが珍しい。

 少しは特別?

 彼の不安そうに見上げる弱そうな姿は保護欲をそそるんだと思う。

「恋人候補、なんてふうには見えないよね」

「形はいろいろだと思うわ。ただ、千秋くん、癇癪持ちなとこもあるからああゆう雰囲気の子で大丈夫かと心配になるかしら?」

「紬は、一緒に居るの不安?」

「なにが?」

 突き放された気分になって萎縮しそうになる。

「こうやって、一緒にいるの不安? 不快?」

「確認されるのは不快かしら?」

 じとりと視線を合わせられる。ああ。視線を外したくてたまらない。

 なんども瞬きを繰り返して紬に視線を合わせる。直接、目を合わせられなくて唇に視線を合わせた。

「あのさ」

「ええ」

「わかりやすい、カタチを、誰が見てもわかりやすい結果をひとつは出したかったんだ」

「高校は卒業できたわね」

 それは、今時なら最低限に近いクリア条件な気がする。

 わかってる。

 それだって、千秋がいなきゃ無理だったんだ。

 それでも、

「それだけじゃなく! 紬の横にいて自信をもてるカタチがほしかったんだ」

 それが無理な背伸びでも。

「私の気持ちはどうでも良いのよね?」

 静かに言われて、そうなんだと思う。

 紬のコトも千秋のコトも、他の家族のコトも考えてなんかいない。

「ごめん。考える余裕がなかった。ただ、紬が遠い高みにいるように見えて、少しでも追いつきたかったのかもしれない」

 言っていて胡散臭さが増したと思える。

 ホントは外の世界に触れたいなんて思っていない。

 恨んですらいるのかもしれない。外なんか知りたくなかった。引き篭もっていたかった。

 楽しいなんて感じなければ楽だっただろうと思う。

 空を見れば晴天とは言えないじめっとした空気。

「焦ってもしかたがないのよ?」

「ごめん」

 思ってもいない言葉。

 紡ぐ自分が嫌でしかたがないよ。

 何にも執着したくないのに千秋にも紬にも執着してる自分が嫌でイヤでしかたがない。

「でもね、私も焦ってた。逸美のコトがよくわからなくて不安だったから。頑張って、外に出て行くなら他の出会いだってできるってコトだし」

 他の、出会い?

 紬にならたくさんありそ……視線は……、え?

「っない! ないよ。むり! ありえないから!?」

「やだ。そこまで否定するコトもないでしょう?」

 軽やかに笑う紬ちゃんはかわいいけど、それでも、無理だ。

「千秋が絡んでるから、かろうじて商店街のや、健とミホは平気だけど、苦手なのは変わんないから……」

 ああ。

 無理すぎて笑い出しそう。

 ないない。本気でない。

「私は?」

「紬は、きっかけは千秋。でも、紬への好きは他への好きと違うんだ」

「すき?」

「好きだよ。他の男と歩いてたりしたら嫌なぐらいには独占欲だってある……抱く資格なんかないけどね」

 紬は紬単体で見てもそばにいて欲しいんだ。

 姉さんや義兄さん、隼子ちゃんたちはある意味空気みたいなもので意識しない。

 たぶん、いてもいなくても気にしない。

 でも

「紬には、本当はそばにいて欲しい。それが、外見なのか、中身なのかはわからないんだ」

「分割できないわ」

「でも、気持ちを蔑ろにするなら分割しようとしてるように感じたんだ。いっそ、切り分けられたら不満しか残らなくてそのままがいいって思えるんだろうね」

「感情ごとに切り分けるなんてムリよ?」

 うん。知ってる。

 だから、

「そういう思考から離れられない時点で、紬にそばにいて欲しいっていうのが間違ってるって思う。きっと、いつか、紬が僕を好きでなくてもいいから離れられないようにしたくなると思うから……」

 きっと、紬の気持ちなんてどこまでも蔑ろに踏みにじって、いっそ憎まれたい。

 千秋はさ、すごくわかりやすい。

 すごく僕がそうありたい理想に近い。

 誰かを大切にしたいと思えないから、憧れたのかもしれない。

「好かれたくて、憎まれたくてたまらないんだ。だからってココでキスしたり、抱きしめたりする根性はないんだ」

「……どっちが、どっちの影響を受けたのか悩むところね……」

「え?」

「つまり、千秋くんと私は特別なの?」

 頷く。

 そのタイミングで、


「揚げたてチュロスうまー!」


「ねぇ、もうじきお弁当じゃないの!?」


「飛鳥ちゃんもエシレちゃんも、一緒に食べれば大丈夫ー! 三等分、三等分ー」



 聞こえてきた声に紬ちゃんが「……菊花ちゃん……」と呟いた。


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