グループデート 風峰仄視点。
欲求に忠実に行きたいままに先行する菊花についていく。
予定外の出費にひとつ仕事を増やそうとインスピレーション仕入れの一環に参加。
話は半分聞き流し。
対応するのは嫌いだが、人に興味がないわけでもない。ただ、踏み込まれるのは嫌いだが。
菊花は兄達と違い裏表がない。
本人そこまで素直なつもりはないらしいが素直な子だと思う。
だから、今はただ気の迷いの熱病だ。もしくは遅い初恋?
やはり、錯覚だと思える。
まぁ、もっと付き合いやすい男が出てくるだろ。
「ほのちゃん! チュロス、チュロス食べよう! 揚げたてだよ!」
「もうじき昼の待ち合わせだろ?」
この子は馬鹿か? お弁当楽しみにはしゃいでなかったか? 食えなくなってもいいのか?
自力歩行系のトリックハウスでキャーキャー騒いでコースター系できゃあきゃあ騒いで。フリーフォールではぎゃーぎゃー絶叫して、食べ物でキャーキャー騒いで。ショップでもカワイイカワイイと騒いでいたか。
基本テンションが高い。仲間内では落ち着いている方だと主張してたが嘘だろう?
「アレ、千秋だ」
ぴたっと足を止めてむこう側の道を見てる。
視線の先にはショップの壁にちょっともたれてる赤毛。顔色はあまり良くない。エシレはジッと寄り添って千秋を見上げてる。
「おーい。千秋ー。エシレちゃーん」
止める間もなく菊花は走り寄る。
「菊花さん」
「あー、菊花ちゃん?」
「どーしたのよ。千秋」
「……コースター系制覇と二周目は……少し、キツい……」
「千秋さん?」
あー、それは、キツいかもしれない。エシレの方は元気いっぱいそうだね。
「私がもう一回ってお願いしたから?」
オロオロとエシレが見上げてる。
もう一回、ね。ミニコースターには数回乗ってた気がするよ?
「菊花、ゲームコーナーに有坂と飛鳥がいたから、飛鳥誘ってコースター行ってこい。エシレ連れて」
「ほのちゃんは?」
「場所取りしてるよ。千秋もへばってるしな」
「千秋さん……」
不安そうな不満そうなエシレの声に俯きぎみだった千秋が顔をあげる。
「エシレは楽しんでくるといいよ。悪いけど、俺は少し休憩させて」
迷うようなエシレに千秋が促すように笑いかける。
「エシレちゃーん、菊花ちゃんと一緒は不満ー?」
「え? あ、そういう訳じゃなぃです」
「よっし! じゃあ行こう!」
後ろ髪を引かれている様子なエシレを強引に引いて菊花は行ってしまう。
いたら千秋は気を使うんだろう。菊花なりの気遣いか。
「大丈夫か?」
こくんと小さな頷き。
「吐き気や目眩は?」
軽く触れれば少し体温が高め。
そのまま昼を広げるつもりの場所へと引いて行く。
途中で有坂も合流した。
「ロッカーから弁当取ってこい」
「ああ。千秋、生きてるか?」
「……コースター系制覇した」
千秋の呟きにうげっと有坂が声をあげる。
有坂は苦手なのが早々発覚だしな。
ロッカーキーを渡せば足早に去っていく。
背凭れのあるベンチに座らせてドリンクを買いに行く。
「飲めるか?」
「ありがとうございます」
「エシレが楽しそうだからってお前が無理してたらどうしようもないだろう?」
「楽しそうに見上げられるとつい」
困ったような苦笑い。
「かわいそうで付き合うならやめておけ」
「は?」
「エシレをかわいそうだと思ってないか? そういう付き合いは対等じゃないからな」
「かわいそうなんて、思って……」
揺らぐ視線が思考の揺らぎを写してる。自覚がない訳でもないのか。
「まぁ、好きにするといいさ。自身が選ぶことだ」
興味がある訳でもない。
ただ、想いを持ってお互いを見てる訳じゃないのがわかるから、面倒だと思う。
「放っておけないんだ」
好きにするといいさ。
追い詰められるのが好みなら止めはしない。
「……自分で、なんとかできる範囲は弁えろよ」
「ありがとうございます」
少しの沈黙の後に返された声を聞いててたぶん無理なんだろうなと思う。
ああ。
ウザったい。
返事なんか分かってる。
「有坂や木野江、だったか?」
友達だろう?
「今、手いっぱいだから」
……そう。
くだらない。つまらない。他人には関わらないのがいい。
「ウチのバカとそのお嫁さんがおまえの兄貴気に入ってるからな」
扱いなんかわからない。
「気づかってくださって、ありがとうございます。ああ、健、戻ってきた」




