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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年夏
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朝会話

「おはよ。涼維」

 炊き上がったごはんをお鍋からおひつに移していると千秋兄が帰ってきた。

 出かけた時とシャツが違うのは逸美にーちゃんに借りたのかな?

「おはよー。おかえりー。朝ごはんは?」

「逸美んとこで食ってきた。なんかリクエストあるんなら作る?」

 さっと手を洗ってかけてあるエプロンを身につける。

 視線は出してある調理器具や、食材チェック。

 しばらく離れたとはいえ馴れた動き。朝食は任せられるらしい。

「今朝は肉の気分!」

 気楽に注文を出しておひつをテーブルにもっていく。

「朝っぱらからかよ。オッケー。隆維達は?」

「学校支度の最終チェック中」

 学校組と自分の分の食器の準備。隆維と碧はごはんって言ってたし、ミラちゃんは朝はご飯のにおい嫌いだし、芹香はどっちだろ?

「ミラちゃん宿題隠蔽とかしてないだろうなぁ?」

 不機嫌そうな千秋兄の言葉に吹き出しそうになる。宿題は毎日隆維がさせてるって言ってたから大丈夫だと思う。

「多分大丈夫じゃないかな。あ。千秋兄、昨日言いそびれて一日、遅れたけどお誕生日おめでとう。大好き」

「ベーコンエッグが?」

 カタンとお皿が置かれる。厚めに切ったベーコンに半熟の目玉焼き。

「おお! 厚切りベーコン! 好き! 愛してる!」

「かっるいなぁ」

 自分の席にセットしていそいそとごはんをよそう。朝の一膳目は白ご飯! 久々の幸福!

「へへ」

「ごはん? トースト?」

 尋ねられ顔をあげる。千秋兄はフライパンと冷蔵庫とパンのストッカーをうろうろ。

「ごはんよそってる。隆維と碧もごはんって言ってた。ミラちゃんはパンかシリアルだと思う」

 お茶碗はこっちに持ってきてある。んーと上の空気味な声のあとに言葉が続く。

「隆維は卵かけごはんに納豆かな?」

「納豆卵かけごはんも美味しいよねー。おかわりはそれいこ」

 きっと一緒に混ぜちゃうと思うな。あ、ちょっと動き止った。苦手だもんね。千秋兄。

「おはよー。朝ごはんできてるー♪ かきこむぜー」

 隆維がミラちゃんと碧を引き連れてやってきた。

「おはよ。隆維、ミラちゃん、碧も。で、しっかり噛め」

 千秋兄が言ったころに芹香もひょっこり顔を出す。

「おはよ。朝帰りはどうかと思うの。……デニッシュサンドでごまかされたりしないんだから」

 文句をつけつつ、置かれたメニューに嬉しさを隠せない。相変わらず好みの把握は完璧だ。

「はいはい。芹香はコーンスープでいいよな? ミルク、残すなよ?」

 芹香は『わかってるもん』とか小さくぼやきながらサンドにかぶりつく。

 朝食時間帯に合わせて朝散歩から帰ってきたのであろう鎮兄が少し反応に困った表情。

「……はょ」

 なんて言っていいのか、わからない、それでも何とか搾り出した感のある朝のアイサツ。

 ひっそりと様子見モードの空気を感じる。

 千秋兄がその声に振り返って菜ばしを揺らす。

「おかえり。おはよう。鎮は朝飯どーする? それとも、食ってきた?」

「あ。食う。ただいま」

「じゃあ、手ぇさっさと洗ってこいよ。ごはんでいいか?」

「……ああ」

 いつもどおりに、しばらく家にいなかったことすら嘘みたいに千秋兄は振舞って、鎮兄はキレイに流された。

「時間、有るならボイルウィンナー食うか?」

「アツアツじゃあ食ってる時間ねぇよ!」

「ダッシュするから食べるー」

 千秋兄の言葉に隆維がブーイング。ミラちゃんは走るらしい。

「千秋兄、デザートはぁ?」

「カットフルーツはあるよ。おまえら、遅刻はすんなよ?」

「はーい」

「千秋兄、ごはんおかわりー」

 おひつを掲げて言ってみる。

「自分でよそえって、……カラってるからパン食ってろ」

 そう、空っぽになりました。パンを食えと冷たくあしらわれる。

「納豆卵かけごはん……」

 食べたかった。

 未練がましくしていると舌打ちが聞こえた。

「あと五分もかからず次が炊けっから待て。待てはできるだろ?」

 炊きたて!

 でも、

「うーん、途中まで隆維送ってくから帰ってからかなー」

 言えば苦笑される。

「帰り道で補導されるなよ?」

「わかってるって」

「鎮はごはん尽きたからデニッシュサンドとベーコンエッグ、ボイルウィンナーとサラダから適当に食って。鍋開けれるまでにもう少しかかるから」

「ああ」

「コーヒー? それともフルーツ系?」

 手を洗って戻ってきたらしい鎮兄に給仕。

「お茶」

「うっわ、わがまま! ちょっと待って。っと、おまえら時間大丈夫か?」

 今から行ったら普通にいける時間。余裕気味。

 でも隆維の体調を考えると少し早めが好ましい。

「ごちそうさま!」

「一時中断!」

「お粗末さま。涼維は昼まで我慢しろ」

 え!? 

 ヒドイ。

 ぱっと見ると千秋兄は笑ってて冗談なんだと気がついた。

 中座は行儀悪いのは確かだけどさ。

「いってきまーす」

「涼維、行くぞー」

 声をかけられて俺も椅子からおりて学校組に混じる。

 制服登校に私服は少し気恥ずかしい。

「いってらっしゃい」

「気をつけて行ってこいよー」

 千秋兄と鎮兄が送り出し。

 歩き出す前に隆維の荷物を取り上げる。

 学校つく前に疲れちゃダメだよね?

「病院前まで行ったら返せよー。少しづつでも体力キープする努力中なんだからな」

「わかったー。それにしても千秋兄と鎮兄、ケンカにならなくてよかったよね」

「鎮兄が戸惑ってたくらいだよなー。外泊文句つけそびれてるし」

 潮騒の聞こえる場所からうろな本線沿いに内地に向かって歩いていく。

 ショッピングモールを越えたあたりで少数の高校生の姿。

 中学校はもう少し先。ショッピングモールのあたりで南線を目指すのが理想ルート。小学校と中学校は近いので、芹香は途中で集団登校に合流する。

「補導されないようにね!」

「いってきますだろ?」

 ふふんとわかれる時に芹香は偉そうに胸をそらす。

「いってくるわ」

「はい。いってらっしゃい」

 ただ、芹香は俺の送り出しはほぼ聞かず、集団登校の群れへ「おっはっよー」と景気のいい挨拶をかけていた。

 まだ梅雨はあけ切っていない不安定な天気。

 それでもこのルートを歩くのはどこか懐かしくて心が弾む。









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