六月三十日
「うろなまで送るか?」
「イイよ。身軽だし、一人で問題なく帰れる」
「迎えに行くまで浮気すんなよ?」
「浮気? しねぇよ。つきあってねぇし。俺は現在フリーだし」
「おとなしく、愛人やってればいいだろう?」
「ばーか。お断りだって。じゃあなー。ッと、飯美味かった。ご馳走様」
ミアを軽く抑えながらジッと見つめる光景。
赤毛のにーちゃんと年長の金髪にーちゃんの軽く洩れ聞こえる少し軽くて、それでいて甘さの含まれた会話を盗み聞き。
「なにやってんの涼維。ミアも久しぶり。可愛さランクアップ?」
ドキドキしてると赤い方に近づいて来られて撫でられた。ちなみに何やってんのはこっちのセリフ。
「千秋にー、お迎え?」
ミアはさっきまでの光景なんか見なかったかのように俺の拘束を振りほどく。
「いや、夏の帰国。ミアにぐーぜんでも会えるって運命?」
「きゃー」
ミアは喜んで手を広げてくれている千秋兄に抱きつく。妹たちは上の兄たちも大好きだから。笑顔で軟派な発言も嬉しかったんだろう。
「ノアは?」
ミアを抱き上げながら千秋兄が首を傾げる。ちらっと周囲を確認してる。
「参加したいツアーがあるんだって。さっきの人は?」
「ん? ダチだけど? ミアも重くなったな〜。そろそろ抱き上げんのキツイぞー」
友達と言われてまぁ、ありかとも思う。千秋兄はソツなく友人を増やすから。そんなことを考えてる横で千秋兄とミアが再会劇場を繰り広げる。
「重くないもーん」
「いやいや、成長したんだろう。ベッドにダイブは卒業だなー」
「えー。まだするもーん。千秋にーが鍛えればいいんだもん」
「うわぁ。無茶言う。なぁ涼維」
甘やかされて少し幼さ演出の強いミアがふてくされつつ千秋兄にしがみつく。
不満を述べてるようだけど、ミアがかわいくてしかたないと言う表情が言葉を裏切ってるよ千秋兄。
「ミアは婚約したんだから、他の男の人の寝室に入っちゃダメだよ。たとえ、兄のでもね」
「えー。そうなの?」
むこうにいる間はこんな無分別な甘え方はしなかったから、ミアもそれなりに気をはってたんだろうなと思う。
「そうだよ。だーめ。で、千秋兄が鍛えるプランは賛成。とりあえず、ご飯食べてから帰ろーよ。空港飯!」
どこまで話を聞いているかわからないからミアが婚約したことをそれとなく伝える。少し驚いたようだけどミアを抱き上げたまま撫でていた。
「ミアは月見うどん食べる〜」
「朧昆布のがあるといいね。海老天丼……あるかなぁ。千秋兄は一緒でいいよね」
ミアが期待いっぱいの眼差しを僕に向ける。しまった! なかったら俺が恨めしげに見られてしまう!
「あっさりめが希望だよ。んー。蕎麦あたり?」
乗り物酔い警戒? そいえば、ごはん奢ってもらってたみたいだけど何時?
「じゃ、エビ天丼定食お供は蕎麦だね」
「海老天にこだわるな」
「海老天に拘ってるんじゃなくて、海老天丼に拘ってるの」
うろなにはタクシー利用で帰った。
後部座席にミアを挟んで座る。
前の席に座っているのは千秋兄の友達? だと言う(本人は否定)サミュエルさん。
空港で千秋兄と別れた友達の人の使用人だとか。
千秋兄は俺たちと話しつつもサミュエルさんとも楽しそうだ。
とうのサミュエルさんは二カ月の休暇を取って日本観光らしい。見所も聞かれた。
ついでに、千秋兄の負傷状況も少し聞けた。
サミュエルさんいなかったら電車帰りを選んでただろうからマズかっただろうなと思う。
「滝下りって。素人だけで行く冒険するとは!」
すっげぇ楽しそう!
「ジークに巻き込まれたんだよ」
千秋には呆れたように苦笑。
まぁ確かに千秋兄っぽい行動じゃないよね。
もう暑いのに長袖だなぁと思ってたら、治りきっていない傷跡がみっともないからと主張された。あとで見せてっていったら拒否られた。ケチ。
で、負傷度合いは酷いところでヒビが入ったくらいだとか。滝下りのあともいろいろトラブルが続いたらしい。ついてないね。
で、うちの方には基本連絡を入れてないらしい。今日帰る事も。『夏休暇に帰る』としか伝えてないとか。俺もだけど。
空港では、「背、伸びた?」と撫でられた。成長期が嬉しい。けどさ。
聞きにくい。にーちゃんちゃんとメシ食ってる?
その前に軽く食べてるからって笑われても、海老天丼定食くらいチョロいよね? チョロいはずだよね?
ソレなのに途中で合流したジークにーちゃんにほとんど手付かずで提供してた。
帰ったら隆維に相談するつもりだった。
相談がすっぽ抜けたのは帰ったら隆維にプチ無視されたから!
なんでかわかんなかった。
そしたら千秋兄が小さく笑って指摘した。
「え? 身長差できた?」
そっと逃げようとする隆維を捉まえて確認すると俺の方が少しだけ高かった。
「え? なんで!? ヒドイよ! お揃いじゃないの俺もイヤ!」
「かってに身長伸ばした!」
理不尽だけど叫ばれるのもわかんなくない。ズレが出るのは少し、ううん、かなりイヤだ。
試験勉強会をウチでやってるらしく祥晴も来てた。
笑うなよ!
「鎮はデート?」
千秋兄が隆維に確認する。
「そーだよ。遅くなるんじゃないかな?」
バイトの後待ち合わせてデートなんだ。いつものことらしい。どんだけ一緒にいんのって首を傾げれば「依存症だろ」と祥晴が笑う。
いくつか確認すると機嫌の悪い隆維を少したしなめて、「ちょっと逸美んとこ寄ってくる」そう言って出掛けて行った。
夕方には、戻ってきて隆維と俺を助手にして晩ごはん作ったり、ミラちゃんの成績に青筋を隠せなかったりしていた。
ミラちゃんの勉強をみつつ、寛いでいた千秋兄がまた、出掛けて行ったのは七時も回った頃。
「バイト先に顔出してくる」
そのまま、健捕まえて駄弁るつもりだからと続く。
つまり遅くなると。
出掛けてしばらくした頃に鎮兄が帰って来た。
おかえりという俺におかえりが返ってくる。
「背、伸びたなぁ」
鎮兄の言葉で隆維がまた憮然とした。
「空ねぇとうまくいってんの?」
聞いてしまったと思った。へろりとしあわせそうに笑う鎮兄。この時点でご馳走様。だ。
ひとしきり惚気て、いなかった間の話題を適当チョイスで喋ってくれる。そんな中、会った事もない祖父の両親、曾祖父母に会ったと話題が跳んだ。あと図書館の桐子さんのとこでやった家族ごっこ。
いや、俺らも曾祖父母には会ったけど。チラッと『家の名を継いでくれ』と言う空気が強かったから回避したんだ。
家を継ぐとかは鎮兄的にも回避項目だったらしい。
時々隆維が時計をちらちら見てた。
もうじき日付が変わる。
なんとなく話題にだせなかった。
「涼維、そろそろ寝よ」
隆維が差し出す手を取る。
「うん、おやすみ、鎮兄。あとさ。千秋兄も戻ってるよ?」
「え?」
ああ。叔母さん、いないからいいよね?
「お誕生日おめでとう」
きっと一番には空ねぇが言ってくれてるでしょ?
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
空ちゃん話題で。
お借りしました。




