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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
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美丘家雑談

 父さんが受話器を置く。

 今時珍しい黒電話。

「どちらさま?」

 おかあさんが父さんに尋ねる。

「大学時代の友人だよ。夏にうろなに来るらしいから、良ければ差し入れ希望とね」

 父さんは楽しそうに笑っている。

「彼は風峰君と同じで研究資金不足でいつだって素寒貧だからねぇ」

「じゃあ、美味しいモノを振舞わないとね」

  庭関連で行われている研究は全てに資金投入されるわけでなく優先順位が付けられている。

 資金投入が少ないのか、それともただひたすらに金食い研究なのか、生産性に繋がる研究はほんの一握りに過ぎない。

 成功しても、研究者自身が貧しいことはそこそこある。

 ……専門以外の常識欠落者も多いからと思う。

 素寒貧と言うのなら適正なパトロンやサポーターがうまくつかなかった人なんだろうなと思う。

「高校の用務員さんパトロンいないの?」

「支援者はいるけど、彼の場合はねぇ」

 失笑。

 首を傾げていると撫でられた。

「彼らは基本フィールドワーク主体だから、気にしないで構わないのだけどね」

「そりゃあ、私はフィールドワークとは無縁な予定だわ」

 でも気になるの。

 父さんがしかたなさそうにため息を吐きだす。

「他のグループの領域に侵犯してしまったり、非合法組織の抗争に巻き込まれたりだね。風峰君の場合は」

 後始末に半端ない資金が動くらしい。抗争に巻き込まれるのは嫌だなぁ。『庭』が資金を出すのと問えば否定される。自腹で実費らしい。

「今回来る予定の想麻君は機材への投資に持ち出しがハンパないというケースだね。研究成果が有益な収益に展開されるとは限らないからね」

 あ。コッチは他人事じゃないケースだ。

「愛菜が研究生活すると言うのなら健康だけは気をつけてくださいね」

 父さんは止めないけど、すすめもしない。

 できるだけ長く生きてくださいと笑う。それだけがのぞみだと。

 花ちゃんの娘だという赤ん坊の話。

 あまり関わってはいけないと、期待してはいけないと注意を受ける。

 選んだ親の子供だからと。

 いつか互いに出会うケースはあれど移植ドナーと変らず匿名性も重要なのだと。

 ただ、花ちゃんの卵子から生まれた女の子を娘とした人が『花の娘だよ』と紹介してくれたのだからいいんだろうなと思う。

 フィレンツェと名付けられた女の子は小さくて、医療設備に守られていた。

 そこにかかっている費用は莫大なはずだった。治療研究の名の下に医療費はかからない。

「もし、彼が来てお手伝いできそうなことがあれば」

 私は大人しく頷く。

「でも、学業が優先ですよ?」

 その言葉にも頷くのだ。

「愛菜ちゃんはいつも素敵成績だから心配ないわね。今日はお手伝いしてくれる余裕はあるかしら?」

「なにを作るの?」

「豚肉の野菜炒めか蒸しか悩んでいるの。愛菜ちゃんはどっちがいいかしら?」

 エプロンを手に取りながら考える。

「暑いけど、野菜蒸しかな?」

 父さんもさっぱりした方が好みだし。

「デザートに桃を買ってきてあるから楽しみね」

 お料理のお手伝いをしたり、特別だと言わんばかりに褒められたり。

 お互いに好きな味や嫌いな味を知っていく。

 少しずつ距離が近づいていく。

 青臭さが苦手なんだがと父さんがピーマンを抜いて欲しそうに眺めてる。

「この苦味がいいんじゃないの」

 おかあさんはそう言って軽やかに笑う。



 きっと少しずつ家族。

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