体験バイト?
風峰仄に見られつつ、逸美を引き起こす。
「いつまでも路上にへたり込んでんなよ」
逸美はビクビクと人目を避けようとフードをより目深にかぶる。意味ねーから。
逸美はなんでって思えるぐらい臆病だ。
千秋と一緒にいる時はキツイことも素で言ってるのに。
千秋は『逸美は面白いから』と笑う。ちなみに俺に対しては『ダチだろう』となる。
千秋がいなければ接点のなかった相手。ひとつ年上。俺からしたら恵まれた環境をいかせてないバカな奴。
商店街とかには千秋に引きずられて出没してたからあの辺では少しマシだ。
仄が逸美に飴玉を握らせる。
「泣きやめ」
いや、仄。逸美が泣きやんだのはビビったからで満足げに頷くとこじゃねぇ。
その後、コンビニで用事を済ませた仄からジュースが提供された。
コンビニの袋の中には飴玉の袋。
コンビニ買いなのか。
「ありがとうございます」
おずおずと逸美が頭を下げる。
「コンビニに用ってなんだったんだ?」
「郵送物と公共料金の支払い、ついでに仕入れ」
仕入れと言いながらコンビニの袋を示す。
飴玉かよ。
「で、恐喝や強盗じゃなくてただの傷害?」
「しつけーよっ!」
「加害者は黙る」
イラっとする。
「大丈夫、……です。そーいうんじゃないから」
「無理して言わされてない?」
逸美がこくんと頷く。
「なんだよこの扱い」
胸糞悪りぃ。
「日頃の行い。あと、彼の反応」
「なっ!」
ムカつくムカつくムカつく!
「このくらいでカッとしてたら仕事なんて長続きしない」
「引きこもりニートのくせに!」
ビクビクしていた逸美がぴたりと動きを止めて反応する。
「人に迷惑さえかけなきゃいいんだよ。学生が傷害事件や喫煙飲酒騒動を起こせば面白いことになるとは思うね」
仄はひらっと手を振って商店街の方へと向かう。
「えっと、あっと、か、帰るね」
「ちょっと、来い」
逃げようとした逸美の手を引いて仄を追う。
仄からチラッと視線が送られる。
「無理強い?」
ジロッと睨めば、逸美はぶんぶんと首を横に振って同意してついてきてますという態度をとる。
少し早いと思うけど、自転車屋は開いているようだった。
「おはよー。おかえりー。あれ、ストーカー逸美んじゃん、珍し〜」
柳本が元気よく挨拶してくる。
ハーフパンツに袖を巻いたTシャツ。いっそタンクトップでいいんじゃないのか?
「ただいま」
「すとーかぁ……、おはよぅ」
「はよぅ」
「チャリでも買うの?」
嬉々として柳本が寄ってくる。
「登校時間いいのか?」
「あうっ! ほのちゃん、ちゃんとセールスしといてよぉお」
そう言うが早いかシャツと鞄を引っつかんで駅方面へと走り去った。柳本、コレにセールスを期待するのか?
「客が来る時間は過ぎてるから、言いたいことくらい聞くぞ」
する気ねぇぞ?
店内はなんとなく狭い。圧迫感がある。
「……、こんな時間から開いてるの?」
逸美が興味深げに呟く。
「七時半だな。通勤通学時間帯に合わせて」
なんでだ?
「パンクしちゃったら困っちゃうでしょう?」
「おはようございます。おばさん」
逸美がそっと柳本母に頭を下げる。
「おはよう。逸美くんも健くんも久しぶりねぇ」
「おはよぅございます」
「体験バイトかしら?」
は?
「仄、いるのに!?」
「ボランティア。給料発生すると申告がめんどくさくなるからイラナイ」
シンコク?
ボランティアって無給? なに考えてんだ?
「確定申告。納税関係は義務」
カクテーシンコク?
「帳簿付けはバイト代貰ってくれるのにね」
「電子化推奨。帳簿付けは規定料金決めてあるから受付可能。高め金額でぼってるから大丈夫」
ぼってんのかよ!?
チラッと逸美を見ると納得したように頷いている。
「推移がわかりやすくなるんだよ」
スイイ?
「あら、逸美くんはコンピューター得意? おばさんは少し苦手なのよー」
……全然、わからねぇ!
「技能が何かあれば、職に繋がる事もあるけれど、何もなければ難しいのも確かで、技能があってもだが、なければなお、コミュニケーション能力が必要になる」
仄がそっと覗き込んでくる。
「コミュ能力が高いからといっていいとも限らないけど、……バカみたく」
あの用務員か?
「何でボランティア?」
「技能獲得と慈善事業。ほんとに項目増えたら申告めんどくさい。それと、……馬鹿が迷惑かけてそうだから」
眼差しが遠いぞ?
それに、理由になってるのか?
結局、シンコクめんどくさい?




