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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
749/823

友達。

木野江逸美

 七夜(むすめ)をあやしながら義兄さんが掃除しているのを横目に外出。

 義兄さんは適当な距離を維持してくれる。

 時々、健並みに乱暴で一二三ひふみ姉さんとの仲は鎮と空さんに負けないくらいラブラブだ。


 今朝の紬の服装はスッとラインのわかりやすいパンツスーツ。

 女性ぽさを抑えたデザインが女性らしさを際立たせる。

 ストーンのついたヘアアクセで上げられた髪。こぼれた髪がむき出しのうなじに踊る。

 その姿にため息がこぼれる。紬が世界で一番綺麗だ。

「声をかけろよ。ストーカー」

 いきなり背後から蹴りを入れてきたのは健だ。

 つい上げ掛けた声が紬に聞こえてないかって焦る。

 はずれたフードをかぶり直しながら首を横に振る。

 声をかけるなんて無理だ。

 自分のダメさ加減に涙が出そうだ。

 アスファルトが微妙に濡れてたらしく、パーカーには黒ずんだ汚れ。

 角を曲がる紬の後ろ姿が見えた。よかった。聞こえなかったみたい。

「泣くなよ。んにしても、アレはモテるだろうな」

 紬はかわいい。控えめで基本は相手を立てる。きっちり芯の部分はあるし、そっといつも見守ってそばにいてくれた。健に言われるまでもなく綺麗で優しい紬がモテるコトは決まっている。

 だから、頑張りたかった。

 高校入試は紬と一緒に通う事を夢見て頑張った。

 気分の悪さは紬を見て吹っ飛んだし。

 ただ、人間関係は怖くて通い続けることができなかった。

 一年遅れで卒業出来たのは翌年入学してきた千秋が迎えに来て一緒に通ってたから。

 千秋は普通授業への出席だけは強要してきた。(集団イベントは黙認してくれたから)

「あー。中学ん時はちょっと来いってたまに迎えに来てたな。ウチにも」

 健のところには千秋か鎮がいってたらしい。

「大学も、千秋と一緒なら大丈夫だったかもしれないって思っちゃうんだ」

 誘われなくて傷ついたんだ。気がついたら自分ひとりで方針を決めて行動してた。

「そこは自分で決めるとこだろ」

 わかってるんだけどさ。それでも、少し見捨てられた気分なんだ。

「紬は鎮の方が好みなのかもしれないし」

「安全パイのアテウマだろ? それ以前に現在はセイレーンと付き合ってんじゃん鎮」

 あの時、すごくショックだったんだ。すごく綺麗な笑顔で鎮に笑いかけていて。

 だから、自分をちゃんと自信持てるように頑張ろうとしてから回った。

「千秋がフォローしてくれれば良かったのに」

 うまくできないのが千秋のせいに思えた。

 鎮はきっと千秋の言葉を受け入れるんだから、やめさせろって思った。

「逸美、それ、本気で言ってる?」

 きっと、それをしたら千秋がより追い詰められる気がしてたのにそう思った。うまく噛み合ってない時期だって知ってたのに。

 だから、言わずに済んで良かったんだと思ってる。おかげで思い出したように後悔と正しかったんだという思いが巡る。

「三割くらい」

「するわけねーじゃん」

 知ってる。

 きっと千秋からかえってくる言葉は「ばっかじゃねぇの。自業自得だろ」かなぁ。

「電話じゃさ。しっくりこないんだ。うまく伝えられない。はっぱをかけてほしいのかもしれない。動き出すための……」

 頑張ると決めて頑張って人混みに負けた。

 どこかで千秋がいたらもっと頑張れたかもと考えてる自分がいる。

 千秋は千秋でわけがわからない感じに追い詰められているのには気がついていたのに。

「ったく。根性足りねーだけのクセしやがって、恵まれすぎて甘えてんじゃねーの?」

 恵まれてるんだろうな。父さんは健在だし、義母さんとは問題はないし、姉さんはマイペースに愛情を注いでくる。義兄さんとも良い距離感。経済的に困窮もしてないし、就職は自営業に従事すると決まってる。

 恵まれてるんだろうな。

 だから、裏から出てきたくないんだ。誰かと仲良くしたいけど、一人でいたいという矛盾。小さな頃からずっとそう。

「健だって人の事言えるの?」

 ケッと乱雑に吐き捨てる。

 人生初の友達は千秋だ。

 健にとっても千秋は多分そう。

 だから、千秋の愚痴にも健だって付き合って聞く。

 蹴られても大きく文句を言うだけで済ます。

 千秋が親友と思っている健だから、こうして喋れる。きっと、健だって似た心境。

 千秋が本気で心を傾けてるのは鎮。だから、鎮を観察する。

 その次がいなくなった女の子。距離が開きそうで少し怖かった。でも、彼女を語る千秋は幸せそうで嬉しい。

 それから家族、友人。その他。

 枠が違うけど大事なことには変わらないんだよと笑う。

 不機嫌になるのは、手が届かないから。納得できないから。

 言ってみればいいのかもしれない。

 変わらずに信じてくれるのを感じられるからだって。

 手をとってないように見えても、ちゃんと支えにしてるのかもしれないよって。

 だって依存ぎみに支えられてる。

 甘えてるから、突き放して、と甘えたくなる。

 千秋、早く帰ってこないかなぁ。


「有坂。警察呼ぶ?」

「呼ぼうとしてんじゃねぇ!」

「いや、傷害事件の真っ只中だし」

「タダのじゃれあいだ」

 健が軽く蹴ってくる。

「有坂が加害者だしな」

 見知らぬ第三者は健の知り合いらしかった。

「柳本んトコ行くには早くね?」

「コンビニ」

「あそ」

「被害者意見は?」

 声が降ってくる。

「じゃれあい? 恐喝?」

 追加で問われる。

 うまく言葉が出ない。

「やっぱり傷害事件?」

 声はこっちに向いていない。

「ちげぇ、っつってんだろ。ほら、逸美も何とか言えよ」

「た、た、健に、夏の下働きのバイト斡旋に」

「だから探してんのは長期だっつてんだろ! つーか泣くな! 仄もさっさとコンビニいけよ!」


 健には二カ月って長期だと思うんだけどなぁ。

『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

青空空さん

『人間どもに不幸を!』

http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/

鍋島サツキさん

話題回想ネタでお借りしました。

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