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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
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将来の方針

有坂健

 めんどくせぇと思いつつ高校を出ておこうと考えたのは「せめて高校は出ていて、一年以上は同じ職場でがんばれる人」それが飛鳥が望んだ付き合う男の最低条件だというからだ。

 クソ下らないと思う。

 学歴があって暴力を振るう奴だっている。

 表面だけきっちりしていて家庭で、なんていうのが問題になるんじゃないのかとも思う。

 実際その考えを告げれば、それ自体は肯定した上で、「社会生活、忍耐力、協調性。それが少なければ、短絡的に暴力に走る可能性も高いでしょう?」と微笑まれた。

 楽だからなと納得している自分がいて嫌な気分だった。

 自嘲ぎみに「お互いに収入手段を持っているっていうか、自身で生活できる基盤となる収入があるって、自身の自信に繋がると思うから。仕事が出来なくなった欲求不満とかも自信喪失に繋がって意外な速度で人を堕とすの」そう言った言葉も否定出来なかった。

「別にそれが当たり前だって思ってるなら、堕ちるのは簡単。でも、健は、難しいって、知ってるでしょ?」

 金がない奴は生きていけない世の中で、人は簡単に堕ちる。

 金がないと気がつけないことも多い。

 金がなくても幸せだなんて綺麗ゴトが言えるのは金のある奴か、傍迷惑な自殺希望者だ。

 何にだって金がかかる。

 だから、飛鳥が言う言葉は納得できる。悔しいほどに。

「お互いが大事で守りたいと思えない相手と家庭なんか築けないわ」

 じゃあ、俺は飛鳥を守りたいと考えているのか?

 自分に問いかけてもわからない。

 ただ、惹かれる。

 見つければ目で追う。

 雑踏の中でも見える気がする。

『愛してる』なんて軽い言葉だろう。

『好き』なんて安っぽい言葉だろう。

『あの人を好きだったの。後悔しない』

 ああ。勝手にしてくれよ。

 産んでくれなんて頼んでねぇ。

 俺と妹は好きじゃなかったんだろう?

 安っぽいアパートでいい母親ぶることで男を引きずり込むんだ。

 男を引きずり込んでる時は嬉しかった。おなかをあまりすかせずに済んだから。

 キッチンの隅で妹を抱えてうずくまる。

 奥の部屋から聞こえる声には耳を塞ぐ。

 金がないからだと今ならわかる。

 金がなくて生きたいなら手段は選べないと知っていた。

 母親が父親だと告げてきた男はいつしか足を運んで来ることはなくなった。

 呑んだくれた母親が言うには、別の女(たぶん本妻)との間に息子が出来たから俺はいらなくなったらしい。

 たぶん、そこそこの手切れ金を貰ったんだろう。店を出したのはその後だった。

 しばらくは飯にありつけてた。

 実際はその手切れ金を食い潰してたんじゃねーかと思う。

 学校から帰れば昨夜の店での残りらしい料理が冷蔵庫に入ってたから夕食がメインだった。同時に近所に住んでたミホが貢いでくるオヤツがその日はじめての食事だなんてザラだった。

 だから、とりあえずは継続の重要性を考えて授業を受ける。

 女の求めだからって情けない理由。

 何が変わるかなんてわからねぇ。飛鳥が求めているのが資格なのか協調性と継続なのかがわからない。……両方か?

 教室の一番後ろの隅の席で惰眠を貪っている仄は仄の方針があるんだろう。

 ただ、まともに頑張ろうと考えてみてる分、そばで寝てられると少し、ウザい。

 中学時代鬼小梅に怒鳴られて、「勝手だろう」と返してた過去にはじめて悪かったかと意識が過った。

「帰ってから寝ろよ」

 授業の後、ボヤけば「関係ないだろう?」と返ってきてスッゲーデジャヴ。

 用務員の風峰兄が笑って「締め切りか?」と笑っていたが、仄は「来てるんだからいいだろう」と答えるだけだった。

 確かにその前はしばらく休んでいた。


 学校は最短で卒業を目指すと決めた。

 次は、仕事だ。

 飛鳥がこの町で仕事をしているし、通うべき学校もこの町だ。

 遠ければ、どっちかが億劫になる。

 それ以前に俺に仕事が出来るのか?

 出来るのかどうかもだし、雇ってもらえるかどうかすらあやしいのが現状じゃないのか?

 瀬尾のじーさんが持ってくる奴は、特殊枠だろう?

 電話で千秋の提案で商店街のツテ使って頼み込むなんて考えられねぇしなぁ。


 宗にボヤいたら「ウチの家政夫さん?」とかふざけたこと言いやがったしな。


 ああ。もう、ムカつく!


 最低限の金がなければまっとうへの道すら閉ざされるんだ。


『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

梅原(旧姓)司先生チラッとお名前お借りしました。


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