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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
747/823

ほのちゃん3

「ほのちゃん」

 無言で視線を投げかけられる。

「夏祭り一緒行こう!」

「断る」

「間髪入れず断るな!」

「友達と行くか、一人で行け」

 つまらなさそうに持ち込みのノートパソコンに視線を戻す。

「えー。行こうよー。楽しいよー」

「人混みは嫌いだ」

 父さんが戻ってきてサポート的に手伝いになってから時間潰しに持ってきてるらしい。覗こうとすると蓋をしてしまう。恥ずかしがり屋なのか、それともそこに秘密が!?

「いやいやたまには克服する努力をだねー」

「しない」

 とりつくしまがないとはこのことか!?

 しかし、奥の手をゲットしているのだ!

「帰りの駅で買って来たケーキがあるんだけど?」

 一瞬、顔が上がる。ケーキ好きと亨君情報だ!

 モールのお店だと網羅している気もして学校の最寄り駅近くで購入して来た。

「ああ、あそこの」

 箱で店を把握するのか。知ってる店なんだ。人気スイーツ店って評判を聞いて行ったんだけどさ。

「ところで、振りまわすと形が崩れる」

 ガサツで悪かったわ。

 暑いしムースとかさっぱり系で買って来たけど。あと、シュークリーム。

 パイ生地の筒にクリームを詰めたやつとか手軽でいいよね。

 奢りスイーツに手を出すのに躊躇いはゼロ。

 餌付けでおとすって出来るかしら?

「じゃあ、サイクリングとかさー」

「暑いから断る」

 くっ!

 負けるか!

「もしかして自転車乗れないとかー?」

「……乗れようが乗れまいが付き合う気はない」

「誘ってるのに!」

「いらないと言っている」

「店先で痴話喧嘩はほどほどにな」

 とーさん何を言ってる!

「ああ、してないから」

「そろそろ学校行く時間だろ。ほのちゃんはいっといで」

 雑に手を振る父さんにほのちゃんが頷く。

「オッさん、無理したら長引くからな」

 そう言って、重い車体の物を少しだけ片づけぎみに寄せておいてくれる。

 出掛けて行くほのちゃんを見送ってるとにんまり笑った父さんが口を開いた。

「手応えはありそうかー?」

 にやにやしてムカつく!

 残されたシュークリームを食べながら、まんじゅうがいいなぁとか言うから余計にムカつく!

「お前の腕じゃ胃袋は掴めないだろうしなぁ」

 しみじみ残念そうに言ってんじゃないわよ!

 紬ちゃんや愛子を見習ってみても良いんじゃないかって余計なお世話だ!

 やってるわよ!


 少し早いけど閉店して愛子のところへ走る。


 夕方スイーツ倶楽部って感じだ。

 愛子に紬ちゃん、麻衣子に重ねーちゃんが基本の参加メンバー。

「新しい出会いはあった?」

 問えば、微妙な空気が流れる。

 重ねーちゃんは信センセらぶだし、紬ちゃんは逸美んとの仲を切り捨て中だし、麻衣子は恋愛ヘタレだし、愛子はレッサーパンダだし。

 ……ひとり者女子会?

「信君以上のタイプはいないわ!」

「いろんな出会いはあるのだけど、ね」

「語学勉強漬けでそれどころじゃないわ!」

「素敵な和菓子に出会いたいわ」

 会話が途切れる。

「信センセ結婚してんじゃん」

 宇美さんと!

「愛人でも良いの! 酔わせて襲いたい」

 うっとり言うな! ダメ女!

「……思い切りも大事かしら?」

 うっとり言う重ねーちゃんを見つめて、そっと視線をさげてぽつんと呟く紬ちゃん。

「ちょっ、紬ちゃん、体は大事にね! 心が大事だからね!」

 変に思い切らないで!? 自暴自棄するくらいなら逸美んとよりを戻して!

「……公開イチャラブが時にムカつく……」

 麻衣子の呟きに重ねーちゃんが同意する。

 ここで言う公開イチャラブは全員の知る相手という前提がつく。

 出来上がってるカップルはそりゃあいる。初々しいのからじれったいのやりすぎじゃバカ! 一人もんの心境も考えろと理不尽したくなるカップルまで。

 そこに掛かる関係性と見守る側の納得という微妙な心理も働くのだ。

「鎮のクセに生意気な! 信君の唇を奪っただけでは足らんのか!」

 キィッとヒステリーな重ねーちゃん。

 お子様時代はキスが挨拶の文化圏で育った彼奴らに何時までもそれを責めるのは少しシツコイ。

 いや、惚れた相手にされたら多分あたしも根に持つけどね〜。

「ご挨拶のキスと恋人のキスは違うと思うの。今日はチョコレートタルトにしましょう。タルト生地は市販品だけどね」

 緩く笑って愛子が本日の食材を差し出す。

「いちゃラブ過ぎるー。すぐりんもむかつくけど、あれはまだ、進展中だから頑張れって思う」

 ボウルとかを準備する麻衣子がうんうんと頷く。きっとプールにも夏祭りにも誘えないに違いないと。まぁ、誘えなさそうだ。

 作るのは作って即やけ食いへと移行するメニューだ。

 タルト生地に流し込むチョコクリームを混ぜる横でアイスボックスクッキーの生地を切ってクッキングペーパーの上に並べていくのは重ねーちゃん。

「使うジャムとかでかなり印象変わるし、お手軽でいいのよ」

 三時間以上の冷凍と言う待ち時間があるのはすぐに焼くんじゃなければ問題ないしなー。

「夏祭り誘ったらほのちゃんに断られたー。一瞬の躊躇もなく!」

 周りから「ぁあ」と微妙な同情の視線を送られる。

「菊花もプールなんて夢のまた夢よね」

 しみじみと麻衣子が頷く。

「そうよ! すぐりんの方が隆維を使えばまだ希望があるわ!」

「隆維君、受験生、よね?」

 愛子と紬ちゃんがどうどうとばかりにたしなめてくる。

「英君もね」

 自分の恋。人の恋。愚痴に体重管理。

 そんなものを突っ込んでスイーツ制作。

 今年は浴衣を着てもいいかなぁって思ったのになぁ。

「好きだなって思ったのは本当なのに。コレってすぐ忘れられる気のせい、なの?」

「とりあえず、押し倒してみたら?」

「それじゃ、どこまでも軽い痴女扱いだと思うの」

 サクッと肉欲に走る重ねーちゃんをざっくりとレッサーパンダが言槍で貫いた。

 しばし、場を沈黙が支配する。

「でも、どうせなら男性にリードして欲しいかなって思うわ」

 沈黙を破って呟いたのは紬ちゃんだった。




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