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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
742/823

定時制事務所で。風峰仄

 ここは定時制用事務所。

「なんでここにいるんだろうか?」

 紙パックに突き刺したストローをかじる。

「そりゃ、お前が在校生で先週、メンドクセェと不登校かましたコトを亨に教えた結果だな」

 むぅ。姪っ子め。

 今度メイド服でも着せてやろう。

「叔父さん、部活で使うタオル忘れちゃったから持って来てもらえるかなぁ。なんて言われたら騙される……」

 かわいい『姪っ子』はタオルとオマケのスポーツドリンクをにこにこ笑顔で受け取り、そのままバカに売り渡した。『授業、頑張ってね』と。ついでに今日は桐子義姉さんが仕事帰りにケーキを買ってくるとかで授業終わったら遊びに来てと誘われた。

「そんなわかりやすいポカするとおもうかー?」

 んー。

 亨は上の兄が溺愛し、真綿にくるんで育てていたから、面白がって一緒にかわいがった。まじめに素直に信じるからイロイロ騙した。今でもけっこう騙される。

 それでも、ルール規則にはきっちりなのは上の兄の教育の賜物だろう。

 つまり、簡単な忘れ物と言うポカミス。あー。ないな。

「つーかね、予定通り進級卒業目指せよ」

 ……留年可能は各学年につき三回。別に在校生が多い分はいいだろうが。ほら、予定内と睨むと冊子で叩かれた。

「学歴が全てじゃないぞ?」

 理不尽だと感じたから言い返し、実情を考える。

 日々の生活費は稼いでる。ネットショッピングで済ませ気味だが、モールと商店街には少し足を向けているし。そういう時に予定外出費を発動させても生活費は圧迫されない程度には稼いでる。目の前のヤツよりは貯金もある。

 うちの兄弟で一番の高学歴低収が目の前にいる(ばか)だからな。

 一番アホだとも思ってるから、紙一重ってやつかもしれないけどさ。学歴と収入が関わるとは限らないのいい一例だろう。出費が多いだけという説もあるけど。つーか、貸した金返せ。

「他の生徒の継続意欲に影響するだろうが」

「その程度ならいつか破綻するし、気にとめる必要もないだろう?」

 正直に言ったら「気にするっつーの!」とまた叩かれた。

 結局、本人の心の持ちようなワケだから周りに流されるならそれまでだろう?

 理不尽な扱いだと思う。

「こないださー、しずが遊びに来てたみたいで桐子喜んでたのはいいけど、ご飯が少なかったー。あと俺いないのに弄られてたー」

 ころりと話題は変わる。注意時間は終了らしい。定時の授業開始時間まで一時間以上あるしな。確かに今更帰るよりもついでだから授業を受けていくのも悪くないだろう。

 いない間に弄られてたと言うけれど、弄らせて抵抗せずに放置するから弄られるんだと思うし、自分からネタも提供するくせに何を言うと思う。

 まさに自業自得。

「俺がなかなか、家族に桐子を紹介しなかったのがよっぽど気に障ってたらしい。しずが真似して彼女との付き合いを秘匿したとか言うけど、あれは思いつかなかっただけだよなー」

「一緒だろ?」

 むっとした視線が向けられる。

 確かに紹介されたら?

 潤の悪口にしか聴こえない事実を思う存分吹き込むけどね。たぶん、上の兄も。

 ソレで破局したケースがいくつかあるのは知ってるけどね。

 そこで壊れるんなら二人の仲はソレまでってだけだろう? 信頼関係築いて無いのが悪い。

 それに、ふらっと行く出先でタダで泊めてくれる女性宅をキープしてたりする自業自得。告白しかけたら人妻だったオチは数件らしいけどそこは伏せるね。

 ネタを持ってるのが悪い。

「いや、ウチは、ほら、絶対に破綻させようと働きかけてくるから、義姉ちゃん、以外さ」

 ばかは兄嫁を兄貴には勿体ねーと言うが、そんな単純な相手でもない。上の兄との仲を邪魔しない限りは親切だけどね。

 良かったね。桐子義姉さんは『ありそうよね』と笑ってたから。ソレよりは年上であることを気にしてたし。バカは子供好き。それを見てて自分から引き気味だったのは桐子義姉さん。

「それで、どう弄られていたの?」

 時間もあるし、聞いてあげるよ。



 曇りだったが人の出入りの少なくなる夜八時に差し掛かる頃、ばらりと雨が振り出した日だったらしい。

 先週、雨なんか降ったっけ?

『カーテン締め切って篭ってたんだろう』と問われる。うん。そのとおり。

 ついでに曜日感覚もなくなるね。

 しずっていうのは潤が構っている去年までうろな高校の昼間に通っていた男の子で、兄にとっては幼馴染のランバートの血の繋がらない弟。小さかった頃を覚えている所為でつい構ってしまうと笑っていた。

 その『しず』のお相手はうろなのセイレーン、歌姫と評判の女性。少女と呼ばれる年齢を卒業し、伸びやかな成長をまわりに喜ばれてる印象。海辺のホテルのお嬢様のひとりだったと思う。

 この町は兄弟の多い家庭が多い。その分、町全体に家族のような連帯も生まれやすいのかもしれない。

 面倒限りないけどね。ただ、そのコミュニティに近づかなければいいだけだから回避手段はある。

 ……亨にとっては呼吸しやすい町かもしれない。

 絡んできやすそうな要因は調べておいた方がいいのかな?

「嫁と姑ごっこして遊んだって言うんだぜ! ずるいと思わないか!?」

 ストロー噛み潰したよ。

「俺も混じりたかった」と悔しげにこぶしを握り締めて言う馬鹿は仕事中で混じれないはずだ。いや、ちょっと混じりたかったけど。引きニートな親戚枠で会話を盗み聞いてたかったよ?

「空ちゃんは控えめでかわいい子だよ~」

 あ~、お嬢様?

 しばらく前までは夏にだけこの町に帰ってきていたとか、そういう情報をもらう。

 ん~、基本興味はないけれど、家族ごっこに混じるのなら興味は、少しある。

 桐子義姉さんの好感度を上げる行為はいやじゃない。

 差し出されるノートと、レンタル教科書。めんどくさいな。

 確認しつつ潤の語りに耳を傾ける。ポケットにいくつか飴玉は入ってる。

 置きっぱなしの『しず』の着替え。亨にとってはどうしてそこで躊躇してしまうのか、理解できない『しず』との接触。

 少しだけ、『しず』に同情する。

 亨は努力が実らないという事実を情報と知っていても実感として知らない。

『人の根本は善良』と言う説をまっすぐに信じてる。

『行動は結果に繋がる』と信じている。

 だからその言葉は時に痛い。

 よし。メイド服に浴衣も追加しよう!

 浴衣なら、部屋着とそそのかせば普段使いするかもしれないしな!

「設定はしずが長男で亨が次男で俺の子設定な。はじめて長男が彼女を連れてきたぞ。って設定。亨も義理の姉候補な設定にどきどきだったらしい」

 ああ、兄弟かいとこがほしいってちょくちょくねだってたよね。流石にそれはよし作ってやろうと気楽に言えることでもないしね。

 誰かを兄と、姉と呼ぶ喜びかぁ。見たかったな。

「空ちゃんはこの子で、しずはこっちの子ね」と写真で解説が入る。

 ああ、この二人なら知ってる。

 手を繋いでデートしてる姿を時々見かけるし、アリサカの友達だった気が、する。うん、確か。

 あれ? ちあき、じゃなかったっけ?

「双子なんだよ」と注釈が入る。

 ところで本題は?

『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org

青空空ちゃんちらっとお借りしました

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