喫煙と
タバコを咥えて揺らしているとサクが火を差し出してくる。
本名は知らない。
家出してきたというサクはひとつ下。
楽して生きたいがモットーで町に来た頃に鎮にちょっかい出して慌てるはめになった。
千秋も鎮も自分に関してちょっかいかけてくる分にはスルーするし、自己対応する。ただ、お互いに関しては物凄く過保護だ。
不干渉に見えて千秋は鎮をいじめた相手に裏で嫌がらせをする。
クラスの奴らの言葉くらいならスルーするけど。
俺の軽口には速攻ノッてきてたけどな。
つまりサクは千秋からの嫌がらせ対象に該当するわけだ。
以前、サクと同じように鎮をカモった奴は気がつけば見かけなくなっていた。
『むこうの友人にグチったら任せろって』と笑った千秋はスッキリ表情。(当時中学生だ)
愚痴ったからか、姿を見なくなったからかはわからない。
サクはやめとけと言ったがシンナーやらにも手を出してるようで、ヘラヘラしている。
やってられないのはわからないでもない。
今誰のとこに転がり込んでんだっけんな?
火が付けられたタバコを吸うことなく消し潰す。
「サク、シンナーはやめとけっつってんだろ」
「やってないっすよぉ」
「ハーブもだぞ」
ドラッグで思考が溶ければ先は短い。
サクはヘラヘラと笑う。
嫌なことは一時的に忘れられる。命を削って未来を切り壊して。
希望がない世界で楽になることが悪い理由がわからない。今が楽に、快楽ならと刹那的欲求。
頭を使えなければ、使い捨ての捨て駒なのに。
「やっほー」
間延びした『せっちゃん』の声。
「たけるん、さっちゃん元気ー? バイト紹介受け入れれるー?」
「はーい」
サクが元気よく返事する。
「たけるんはー?」
にぱにぱ笑って問うてくる。
「学校時間までには終わるよーん」
「継続でできる仕事探そうか、と思ってる……」
ぱちりとせっちゃんが目を瞬かせる。
「うーん。今度声掛けしとくねー。今日はどーするぅ?」
手を振って奴らを見送る。
継続できる仕事。
思いつかなくてため息が出る。
人生なんて基本腐ってる。
他人なんて信用できない。
親なんか信用できない生き物だ。
日向の奴らだけが笑ってられる。
だから、笑ってほしいと思うんだ。日向を虚構として横目に切り捨てた瞳の色に親近感。
日向の色で笑ってほしいと思った。
俺の日向は妹で、それを踏みにじったのは結局あの女だった。
妹は少しはアイツを信じてたのに。じりりと感情が焦れる。
母を見て女を嫌悪した。
女なんてみんな一緒。甘言に揺れてすがって捨てる。ああ。こいつも一緒。
千秋も鎮も特別なんか作らないと思ってた。
先に特別を作った千秋はバカみたいに躊躇って躊躇って壊れたモノにすがってる。やっぱり女なんてロクでもない。
鎮は躊躇しつつも受け入れてもらえる甘さに浸っている。
二人とも臆病だ。
女なんぞどうしようもない。それでも惹かれた。
こっちを見ることのない女。
手が届けば、こっちを見れば興味は薄れる?
自分の臆病さに吐きそうだ。
俺を見ろと思う強さで、俺を見るなと思う。
扉を開けろと思う重さでどこにも開くなと心に重りを落とす。
「健?」
声に顔を上げればミホがいた。
体のラインのわかりやすいキャミに薄いシャツを羽織っている。
安物くさい化粧品の匂いに混じるタバコの匂い。
ミホは吸わないからバイト先で吸っている相手がいたんだろう。
「どーした?」
「宿題やった?」
「んなもんやってねーよ」
すり寄ってくる甘ったるい匂い。腕に押し付けられる弾力。
「じゃあ、一緒にしよーよ」
媚びるような眼差しにイラっとする。
サイテーなのは世界なのか、俺なのか。
きっと、日向をみつけた俺がサイテーなんだろう。




