少し、複雑な気分。天音から隆維
流れて戸津先生のところでお手紙書き。
白い便箋を見ながら隆維はジッとしている。その手には試供品のボールペン。支払い金額は補填されたけどね。試供品は私のでいいと思ってる。
宇美さんがおやつを提供してくれる。ジェイドさんとは顔見知りっぽい。
途中、ジェイドさんが電話していた。
「りゅー」
呼びかけられてジロッと睨む。かなり機嫌悪い。
「部屋がちょっと散らかってて、散らかし犯追求もせず、『もういい』って一人お片づけスタートって、ハイディだとかなりヤバイんだけど、千秋は?」
「ハイディ? 父さんのコトだよね? 千秋兄は目についた軽い散らかりは普通に片付けるけど? 後で嫌味くらいくるけど」
ここの兄弟は普通に潔癖かと突っ込みたくなるとこがあるし、千秋さんの部屋が一番、散らかってる方だという話だし。
「そっか〜。大丈夫なんだ」
でも、日生のおじさん怒るの?
私とジェイドさんの視線が合う。
「怒る怒る。結構短気だからね。口煩いし。すぐ、手が出るし。脅してくるしさ」
すっごい大好きオーラで悪口を言い連ねる。
『ぶなん』
デブ猫が隆維の膝に割り込む。隆維はむぞうさにそのおなかを撫でてやっている。
「ちゃんと生物の安全確保はしたしね」
「せーぶつ?」
「カエルの水槽が割れてさー、部屋水浸しにガラスまみれ」
いやぁ、カエル部屋から出すの大変だったと。
あれ?
「それ、ちょっとじゃねーよ。罵詈雑言ナシでやってたらヤバイと思う。まぁ、それ以前に内側にいれて無ければ、有りの対応だけどさ」
たたんだ手紙を封筒にいれて封をする。
「はい。ちゃんと渡してくれるんだろうな?」
「もちろん!」
「……千秋兄の写真とかもあったりすんの?」
「あるよ? 見る?」
得意げにひろげた写真は確かに千秋さんが写ってた。
掃除用具を持って指揮してるのとか、食器を洗いながらつまみ食いしてる人を踏んでたり、結構楽しそうだ。
「コレはばれたら怒られそうなやつ〜」
ぬいぐるみに囲まれて安眠モードの千秋さんだった。寝てる間に周りに積んだのか。
「千秋兄もふったの好きだから。バレる前に謝れば良かったのに」
「場所は封印してたんだけどなぁ」
「いや、掃除しろよ」
会話が微妙どころじゃなくずれている。封印しても綺麗にならないから。
「封印したからいっかと思ってたんだけど、ジークが言うには片付け中に千秋がりゅーけつざたとか言って、電話が切れたんー」
あ。
ガンッとジェイドさんの頭が沈んだ。
日生のおじさんだった。うしろで宇美さんが手を振ってる。
「何万回掃除を覚えろと言えば覚えるのかな。こののーみそと体はっ」
「……えっと、とりあえず、ムリョータイスーで」
覚える気はなさそうだった。
日生のおウチに連れ帰られて反省を促されるらしいんだけど、ずっと隆維は不機嫌だった。ボールペンは「さんきゅ」つきで返してもらった。
◇◇
馴れ馴れしいジェイドにーちゃんは誰か他の人も共犯なのにと不満そう。
少しくらい荒れてた方がやりがいあっていいだろうとか、その系統の発言が続く。
そして父さんにゲンコツされる。
もしかしたら、父さんを連れて行きたいのかなとか思うんだ。
父さんが俺たちのところに帰って来るまでの時間って、実際、三年くらいだったかな? 小さかったからよくは覚えてないんだ。帰ってきてからも一緒に住むようになるまで間があったし。
その間どこで何をしてたかは情報はないってラフは言ってた。
ミラはその時にできたという娘で。
つまり、そこには人間関係は存在する。それも芹香の家の方からはツテがあったらしいし。そういう意味、我が父ながら胡散臭い。
そう嫌味っぽく言ってみれば笑って「胡散臭いな」と認めるから、会話は続かない。
目の前のじゃれあいみたいな関係は築けない。
なんだか『家族』を見せ付けられてる気分になる。
ミアやノアみたいに全幅の信頼なんかできない。ミラみたいに一番大好きなんて向けれない。
にーさんたちも父さんにはどこか遠慮というか、壁があって、だからそんなものだと思えてた。
父さんは、男の子にはそんな対応する人だって思ってた。
違った。
どーってことのないことだと思う。
怒られるようなコトを俺たちがしてないだけ?
俺たちに一年かけて触れる時間より多い時期、今だけでジェイドにーちゃんに触ってる。いや、別にごんごんお手軽に殴られたいわけじゃないんだ。痛いのは泣けるから嫌いだし、わけわかんなくなるし。
……そっか。
少し、嫉妬してるんだ。
涼維に会いたい。
千秋兄にいつもみたいに『ばっかじゃねーの』って飛ばして欲しい。
ジェイドにーちゃんは別に俺を排除したいんじゃない。向けられる視線は懐っこいし。
「うりゃっ」
え?
ふわんと足が浮いた。
「っな!?」
頬に頬がすり寄せられる。
「アツイよ。抱っこしたげる」
ジェイドにーちゃんの肌はヒヤリとしていた。
「お姫様抱っこが楽?」
なにいってんの?
「歩ける! おろして!」
「無理しなーい。無理しなーい」
けらけらと楽しそうに笑う。
俺は、楽しくなーい!
交渉の末、おんぶに妥協してもらった。
恥ずかしいし!
起きたら家だったし。




