ほーかごれっつしょっぴんぐ
「レターセット買いによるから。途中まで送る」
隆維の提案は唐突だった。つい帰り準備の手が止まる。
「レターセット?」
手紙?
「んー。千秋兄にね。確か、千秋兄の下宿先父さんの紹介だからおかしくはねーんだけどさ」
不満そうな隆維。手紙という手法が嫌いってわけじゃないんだろうけど、千秋さんに手間を掛けるのを面倒がってるフシをこないだから感じる。
尋ねれば「だって千秋兄だし」と返ってくる。その理由がわからないと返せば、少し、自分でも考え込んでた。「でも、千秋兄は気にしてないと思うんだけどなぁ」と続く。「長く気に病むタイプじゃねーし」と。
だとしても電話の速切りその後の着信拒否は謝罪すべきだと思う。
商店街の文房具屋さんで買えばその辺りで書きやすいからだと思う。高原さんの玩具屋さんとか、戸津クリニックとか。
「ミラがさ、随分と親しげでさ、俺は知らねーのに一方的に知られてるって好きじゃねーんだよね」
校門を出ると誰かを待っているようなお兄さんの姿。こっちを見て体を動かした。
「オツカレさまー」
「マジ待ってたんだ」
「ヤクソクだよね?」
キョロキョロと周囲をうかがっている。
「ミラは部活」
あからさまに胸を撫で下ろした彼に頭を下げる。
「こんにちは」
「コンニチハ。ジェイドです」
「千秋兄に手紙届けてくれるんだって」
彼はにっこり笑っている。
少し、思い出すように何度か瞬き。
首を傾げて終わった。
「天音です」
「レターセット買いに行って、その辺で書くから、ちょっと待って」
「コンビニ?」
「商店街の文房具屋さん」
ジェイドさんが名前を復唱しようとしたタイミングにかぶせて隆維が行動方針を告げる。
「しょーてんがい……。じゃあ、行こう!」
ジェイドさんはにっこり笑って隆維の荷物と腕をとってサッと歩きはじめる。
「疲れたら抱っこしてあげる!」
「いらない!」
「えー? りゅー軽いからダイジョーブだよ〜」
一瞬、抱き上げられてくるんとまわされる。
「おろせー」
と苦情の声をあげてる隆維を笑いながらジェイドさんは下ろした。
うろな文具店は文房具屋さんと言うより画材屋さんという雰囲気の方が近いお店。
いろんな画材関連が並んでたりする。
だから、自動ドアの外と内側ではなんだか違う空気、時間が流れているような錯覚をしてしまう。お店の人が「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる。メガネのお兄さんだ。
ここのお店は三春叔父さんも気に入ってちらちら買い物に入ってるらしい。ついでにノートや筆記具を買い足してくれるから用事が発生したコトのない私ははじめて入る。
だから、珍しく感じてキョロキョロしてしまう。
「コレかわいい」
「一筆箋は今日は用がねぇの」
「これキレイ」
「千代紙はレターセットじゃねぇの」
「コレは?」
「ファンシーすぎるの!」
「ペンギン……」
「ジェイドにーちゃん個人で買えば?」
「買ったら手紙くれる?」
「はぁ? なんで、俺がにーちゃんに手紙出さなきゃいけないんだよ」
なんか、会話が不思議。
「りょーの写真送ってあげるよ?」
「ぇ……」
あ。誘惑されてる。
「送ってきたら返事くらい出すよ?」
少し迷って隆維が妥協した。
「活動資金貰ったから買ってあげる〜。千秋用のやつ決まった?」
「これかな」
「ぇー。カワイクナイヨ?」
「千秋兄にだからいーの」
覗くとシンプルな便箋と白封筒が隆維の手にはあった。
「千秋、カワイーのもキレーも好きだよ?」
「……だから、ごめんなさいの手紙はシンプルでいいの! にーちゃんだって壊してごめんなさいはシンプルにやったんじゃないの?」
「外食に連れ出されてたからまだばれてないと思うなー。連絡ねーし」
軽い口調に隆維が息を飲んだ。
「あんたが先に千秋兄と俺に謝れ!」
隆維が怒った。
まぁ、しかたないかな?
私はにこにこ見守っている店員さんにごめんなさいを込めて頭を下げた。
次の行動は鞄から財布を出して喧嘩しかけてる二人の持っている物をサッサとレジに持っていって支払いを済ませて、振り返る。
「お店に迷惑でしょ」
隆維は機嫌が悪く、ジェイドさんはにこにこと楽しそうだった。
『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』
http://book1.adouzi.eu.org/n2532br/
『うろな文具店』
メガネの店員さんお借りいたしました。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
高原の玩具屋さんの存在ちらり。




