日常風景これ天国
「高原監督と清水先生の指導がね、的確でスゴくわかりやすいんですよ」
亨君がニコニコと料理の仕上げをしていく。広めに作ってあるキッチン。どこになにがあるか、きっちり把握している滑らかな動き。そこにいるのがもう日常の一コマになっていると感じる。
「ごめんなさいね」
家事を大きく任せてしまっているようで謝罪する。勉強時間や遊ぶ時間が減ってしまうのはどうかと思うし。
不思議そうに首をかしげる姿は小柄さもあいまって可愛らしい。
「桐子叔母さんが下準備してくださってた分だし、お仕事でお疲れでしょう?」
座っていてくださいとビールグラスを握らされる。
「部活、厳しくないかしら?」
小梅ちゃんは厳しく指導するタイプだったと思うのよね。その流れを汲んだ直澄君も。
「大丈夫ですよ。お二人とも個人個人に合わせて練習をみてくださってるので、すごいですよね。ですから僕はただその指導に応えられるように努力するだけだと思うんです」
ビールを持ってきてくれて、はにかんだ笑顔。
「だから、とても今楽しいんです。料理を持ってきますね」
仕事から、帰って来たら『おかえりなさい』お風呂が準備されていて、あがれば、可愛い甥が『ごはん今仕上げますね』と笑顔を向けてくれる。
なにこの生活!?
潤とはお互いの休暇日でないと会いにくいし。帰って来るのは深夜だから。
「お友達、できたかしら?」
「はい。楽しい人がたくさんで、はじめての経験がいっぱいなんですよ」
もっと努力しないといけませんよねと天井を見つめる亨君。努力はいいのだけど、
「無理はしないようにね」
「はい。自己管理に失敗してご迷惑をかけないようにするつもりです」
きっちりし過ぎてるのがちょっとアレかしら。
「えっと、だから」
あら?
「いつ、その、いとことか出来てもお手伝いしますからっ!」
恥ずかしいのか、真っ赤になってうつむく亨君はかわいい。
でも、そうか、期待してたのか。
「ごめんなさいね」
ぱっと顔を上げて、私の表情を確認した亨君が今度は青くなる。
「ご、ごめんなさい!」
いいのいいのと撫でておく。
高齢出産は可能な年齢だろうけれど、若い頃に子供は望めなくなって、結婚すら諦めた。わかっていて、潤はそれで気にしないと言ってくれたけど、周りがそうとは限らない。
「お義姉さん、亨君のお母様には感謝してるのよ。こんなかわいい疑似息子を貸してくれてるんですもの」
笑うと照れくさそうに「そんな……」ともらす。
「そぉね。気にするのならごっこ遊びにでも付き合ってもらいましょうか」
「ごっこ遊び?」
「ええ。私がおかーさんで亨君が息子ね。潤がおとーさんで」
「配役が娘じゃなきゃいいです」
きゅっと亨君が手を握って宣言する。
ふふ。
楽しい。
丁度、玄関からインターホンの音が響いた。
時刻は八時前、潤は帰ってくる時間ではなかった。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
より清水司先生
高原直澄君
お借りしました。




