電話相談
真新しいスマホを弄りながら故郷の友人たちと通話する。
「ん〜。あいつ、新しいカモなのか、本命なのかどっちだろうなー」
女の子に貢がせて基本の生計を立てている男ではあるが、知る限りかなりの女性不信。人間不信だ。信じてる信じていないを無視して情を注ぐ相手は妹となぜかうちの兄。なんだかんだ言って甘いし、構いたがるのだ。
人間不信のくせに他人を構いたがる変な友人だ。
突っ張ってみても結局根っこの部分で人がいいんだろうと思うと微笑ましく思う。
「ソレ、千秋にやるから、好きに使えばいい」
ザインが僕の髪に触りながらそう告げてくる。
「料金プランの気にするポイントはー?」
「そのへんは部下に聞け」
そーゆー細かいことはノータッチらしい。じゃあ遠慮なく。
「ん」
タップしてダウンロードして、使いやすいカスタマイズ。日本時間とSNSのアプリは必須。メールアドレスを取得して新規設定。真っ新のアカウント。
音楽ツールとスタンプを物色して、アドレス帳に兄弟や友人のアドレスを叩く。ただ、確認にしゃべるのもメールするのも一部だけ。
帰ればいつもの自分のがあるしね。
新型はなんか嬉しいし、ずっと触ってたくなる。最初の内は機能をイロイロ試したくなる。
彼女は機嫌よくとは言えない感じで通話に応じた。
『ちーちゃんどないしよ』と。
ヤツが口説いて僕が邪魔したのは「相手いないんならお互い誘いよけにつきあおうよ」と誘っている相手だった。健……。対象が身近なら、ちゃんと言っときやがれ。
「悪いヤツじゃないよ。ただ、アイツ女性不信だから、……わかるだろ?」
『あたしと逆かぁ』
そう、彼女は男を信じることができない。父親が敵で、姉の夫は『姉』を裏切ったから。
そーいう意味では僕も信じてもらえてない。信じてもらえているのは立ち位置『兄弟分』としてに過ぎない。一線越えれば不信の眼差しを向けられる。
「ある意味、理解はしやすいかもだろ?」
『でもなぁ。一人でやっていくつもりやしさぁ』
人はよくても、男は要らない。まぁそれも人生だと思う。
傷ついたらそれに近づくのは嫌なものだと思うから。
「それで、いいんじゃないの? ああ、そうだ」
楽でいていいと思う。在りたい自分を見定めてるならいいと思う。一人が寂しければ友人も家族も今はいるだろ?
『んー?』
「ひとつの職場を一年以上続けることができたら、考えてあげるって条件は? もちろん、ちゃんとしたうしろ暗くないお仕事で」
それならすぐ答えを出す必要もないし、健だって、『普通』にやっていける自信が身につくだろうと思う。
『一年ぐらいいけるやろ?』
飛鳥ちゃんが当たり前口調で呟く。多分、健には難しい。まず、ちゃんと仕事につけるかからが問題だろう。若ちゃんを見ろよと言いたい。
人には向き不向きがあって、はまりが悪いヤツだっている。
「いけるなら普通に真っ当な生活できるってことだよ。アイツならできるって思うし、異性を信じれない飛鳥ちゃんのことだって理解できると思う。飛鳥ちゃん、飛鳥ちゃんはさ、まず条件をアイツがクリアできるのを待ってる間、考えればいいんだと思う。アイツが本気じゃないなら一年なんてもたせないと思うからさ」
僕にできる健の応援はこのくらい。健の名前は出さずアイツとほのめかす。飛鳥ちゃんも意識してやって。
飛鳥ちゃんを泣かすなら健に文句はつけるけど、飛鳥ちゃんは言わないだろう。今付き合っていないからこぼされる情報。
『ちーちゃん、あたし、その条件、考えてみる。助言おおきに。ちーちゃんは、大丈夫か?』
「うん。もちろん、大丈夫だって」
通話終了。
タイミングみて健にも通話入れないとなぁと思う。
「もういいか?」
わざわざ耳元で囁くんじゃねぇ!
「ん。ごはん、だろ?」
「ああ。行こうか」
差し出される手を払う。
「人が多いから、迷子になるぞ」
子供扱いにムカつく。
「ならねーよ」
結局腕を捕まえられたままレストランエリアにむかうハメになった。




