電話がウザい
「お疲れ」
太陽の位置はもう結構高い位置に来てる。世界は眩しいと言える。
彼女が通用口から出てくると同時に声をかける。
「おはよう。なんでいるかな?」
「会いたかったからだろ?」
正直に告げてみれば面白くないことに苦虫を噛み潰したように嫌そうな表情。笑えばイイのに。
「ミホは……」
「関係ないだろ。俺は、……っん、飛鳥が好きだ。っつってんだろ」
気恥ずかしくて詰まったがストレートに言ってしまう。
飛鳥ははぁっとタメ息をこぼす。
「誰にでも言ってるんでしょ? 貢いでくれそうな女の子にはさ」
明らかに呆れて見下してくる眼差しにカッとしそうなる。
「簡単に応じてくれる相手に言っときなよ。あたしは健のタイプは考えられないから。間違いなくロクデナシでしょ」
「千秋や、鎮みたいな方がいいのかよ。あいつらはちゃんと学校も行って大学だって普通に通ってんだからな」
つい、声が荒くなった。
「ちょっと、近所迷惑でしょ。それにしーちゃんはおつきあいしてる人いるし、ちーちゃんは惚れた相手にこだわり続けてるくせに他にコナかけるクズよね。ちーちゃんとしては甘えてるだけなんやろうけど」
表情が少し甘さを帯びる。その表情を引き出すのは千秋かよ。
「んなの関係ないだろ。今、飛鳥に告ってんのは俺だろ?」
それに、あいつらだなんて言ってねぇ。『みたいな』っつってるだけだ。
「……だから、断ってるでしょ」
「言っとくけど、俺はミホとつきあうことはねーんだよ!」
「関係ないことよね。でも、ミホを泣かせるの?」
サイテーとでも言いそうな表情で見られる。そこが少し胸に痛い。
着信音に飛鳥は壁に軽くもたれて、少し怪訝げに応じる。
切れよ。俺と話してんだろ!?
じりじりと苛立つ。
「おはよー。ちーちゃん」
声が華やぐ。
千秋かよ。
「えー。うん。今朝はちょっと残業でまだ、ウチについてないんよ」
その声は楽しそうで。イラッとする。
「え? そーなん。うーん、この番号は仮って感じ? うん。三十分ぐらいしたらウチにいると思うわ。うん。あとでなー」
あとで、なのかよ。
「千秋、なんだって?」
「なんで、まだいんの」
ムカつく。
「ちゃんと送ってやるよ」
「いや、朝やし。平気だけど? ああ。ちーちゃん、スマホ行方不明で代替え機なんだって」
言いながら飛鳥は歩き出す。
「なんであたしなん?」
「しかたねーだろ。気になんのお前なんだから」
「じゃあ、きっと、他にも気になる人、できるわよ」
速度を上げる飛鳥。ポケットでスマホが揺れた。
『お。健、ちょっと番号変わるからさー、連絡〜』
呑気な千秋の声が苛立つ。
『んー、時間早過ぎたか?』
飛鳥の背が遠くなる。
「っるっせ。口説いてる最中だったんだよ」
『ぁ〜、悪い。掛け直すな』
フツっと途切れた通話。
掛け直してこない気がした。
慌てて、見知らぬ番号をタップする。
ちょっと待て!?
料金大丈夫か!? 俺。
『え? 健、どーかしたのか? 口説いてたんじゃあ?』
舌打ちをする。
「っるっせぇ。らしくねぇ反応が返ったら気になるだろうが」
『あー、ごめん。また、時間みて連絡入れる』
「ああ」
きっとこのあと千秋は飛鳥としゃべるんだろう。
そういえば、千秋に飛鳥が気になってると伝えてなかったなと思う。




