ご機嫌ナナメ
五月三十一日、日曜日。
今日は隆維の誕生日。鈴音が絶対に行くと言ってきかない。
誕生日だと言うのは鈴音が騒ぐから知った。
少し、かんがえれば、誕生日を祝うという行為をしていない事に気がつくと思う。
鈴音の誕生日は母さんが死んだ日の一週間前だったりするからなんとなく祝わないんだよね。
ウチから連れてきたお人形の髪を梳きながらはしゃぐ鈴音を見守る。
贈り物はなにがいいかなぁと言うから「鈴の付いた厄除けは?」と振ってみる。御守りと言わずに贈り物なら受け取ってくれるだろう。
鈴の音色は魔除けだと言われてるしね。
「私をプレゼント?」
きゃーっとはしゃぐ鈴音が少しわからない。
でも確かに手作りおやつよりはマシかなぁと思う。
結局なにを準備したかは知らない。
まだ、渡せてないから。
隆維はジッとスマホとパソコンと家電の子機を前に座っている。
声をかけ難い空気なのだ。
スマホが着信を告げた瞬間取り上げる隆維。
誰かからの連絡を(って、涼維か)待ち構えているらしい。
ぷちりと通話を切り、軽くテーブルに放り出す。この間、五秒もない。
「千秋兄だったぁ」
ぐだぐだと通信状態に問題がないかチェックを始める隆維。
……千秋さん、無言で切られたんだ。
瞬間、飲み込めなかったのかバイト前にゼリーをブラッシングしていた鎮さんが数回瞬きをしている。
「え? 千秋からの連絡?」
スマホに手を伸ばそうとして阻害される。
「涼維からの連絡待ってんの!」
自分の回線使えと言われて、鎮さんが「着信拒否されてる……」とぽつんとこぼす。
あ。隆維、「あっそう」で流すのはヒドイと思う。
鈴音は「カッコイイ」って言うところじゃないからね? ミリセントさんも。
すごく後ろ髪引かれる様子で鎮さんがバイトに行った後電話の子機が鳴った。
「涼維」
隆維の声が甘い。
「うん。同じ時間。……うん。愛してる。……うん。……ん。誕生日おめでとう。ばーか。いつだって、一緒だから」
入りこんじゃいけない甘ったるい通話。
でも、この双子には日常会話だったと思う。久々に聞くと引くけどね。
通話終了を確認して、高遠君が隆維に声をかける。
「ちーちゃんに謝っときなよ?」
隆維がキョトンと高遠君を見つめる。
なんで? って字幕が見えるようだ。
その後、何度か通話をかけても繋がらなかったらしくメールだけだして、(高遠君と長船君に強制的に「やれ」って言われて)部屋に戻って寝ると宣言した。
日付け変わった瞬間から涼維からの連絡待機してたらしい。
知ってたけど、馬鹿だ。
じっと見つめると「今日は特別なんだよ。一番二人でいちゃつく日なの!」と照れくさそうにそっぽを向かれた。
うん。馬鹿だと思う。
そして、お祝いを言いそびれて暗黒物質を渡しそびれた二人もだ。
その後、隆維が千秋さんに着信拒否されてるとぼやいていたけど同情すべきか悩ましい。




