はい!?
「宇美さん?」
おずおずと声をかけてくれるのは尋歌ちゃん。
さっき実家で『宇美ちゃん。おねーちゃんになるのよー。旦那様には内緒ねー』と母に告げられたショックが抜けない。
父さんは今単身赴任中で帰省する間を惜しんで期間を短縮しようと頑張っている。その父に内緒とは。なにを考えてる母!?
コロコロ笑って『できちゃってた』軽すぎる。『だって、宇美ちゃんの新しい家族にばっかり意識をむけてておかーさんをないがしろにするんですもの〜。おどかしちゃわないとね!』『もの〜』じゃないわよ。おどかすつもりで浮気を疑われたいの!?
きょとんとして『ないわー』と笑われる。
「ごめんね。尋歌ちゃん」
心配そうな尋歌ちゃんに笑いかける。
「母が父の留守に気がたってるみたいなの。時々、子供のような人だから」
不思議そうに髪が揺れる。
「お手伝い、引き受けたけど……」
良くなかった? と不安そうな表情になる尋歌ちゃん。動物と触れ合う機会を増やしたいのだろう。
「ええ。ありがとう。週二で猪口先生もバイトに来るらしいし、よろしくね」
ペットショップの方に。それでいいのかしら?
「宇美さんに会いに?」
「んー。隼子を気にしてるっぽいのよねぇ。でも隼子は『友だち』認識から外してないみたいなのよねぇ」
好意的だけどお友達枠から抜けてない感じ。
「あー。もう。しばらく尋歌ちゃんに迷惑かけちゃうかもね」
「え?」
「ウチのかーさんがね」
「梨沙さん明るくて優しいですよ?」
うん。そういう気性問題じゃないのよね。
きっと、とーさんに気がついて欲しいんだろうなぁ。伝えたりしたらきっと拗ねちゃうしなぁ。
我が母ながら面倒なんだから。
両親の仲がいいのは嬉しいけれど、年の離れすぎた弟か妹かぁ。
尋歌ちゃんの頭を撫でる。
「学校優先、お友達優先しなさいね」
「え! ミリーちゃんに振り回されすぎるのはちょっと」
びくんと体が引けてる。
「頑張って対人スキル上げなさいね。いろんな人がいるから。もちろん、受け入れるところと、切り捨てるところの判断はとても大事よ。体も心も初期治療が一番有効なことは変わらないんだから」
尋歌ちゃんはのっそりと足元にまとわりつくスカイフィッシュ(十一キロ)を撫でながら頷く。
「尋歌ちゃんはちょっと無理かなって思うぐらいで頑張って、時々、息を抜くのがいいんじゃないかしら? ずっと頑張っちゃうと疲れちゃうもの。ちゃんと対応するっていうのは、言いなりになることじゃないもの」
「そうね。じゃあ、宇美さん」
なにかしら?
「なにが気になってるんですか?」
すっぱり聞いてきた。
「そうね」
しかたないかしら?
そうね。しかたないわね。
じっと勝気そうに見えるその眼差しと視線を合わせる。
「お姉さんになるのよ。ちょっと、ほら。年の差がありすぎて。高齢出産の枠っぽいし、心配というか、いろいろ複雑なのよ。信弘さんとまだ、……だし、ね」
「個人差とタイミングだし、ノブくんに問題がないとも限らないし、年齢上のノブくんの方が劣化している可能性も高いし……って、梨沙さん!?」
信弘さん、そっとドアを閉めないで。




