逆転生活 飛鳥
朝の日差しが眩しい。
これから暑くなるのかなぁと思う。
海を回って帰るなんて選択肢はないけれど、まっすぐ帰るのもつまらないような微妙な心境。
「いやぁ。帰んないとなぁ」
ゴールデンウィーク明けからしばらく続く予定の反転生活。
一番困るのは食生活の乱れだろうか?
なにせ店が開いてなくて食材を安く手に入れられない。
時々、あーちゃんやさーやちゃんが差し入れてくれるけどね。
「あ。おはようございます」
「あら。おはよう。早いねー」
照れたように笑うのは長船祥晴くん。中学生や高校生の早朝部活の子たちを見かける時間帯だ。
「気温上がりはじめる前に水あげてやりたいですから」
長船くんは弟分の友人にあたる中学生だ。植物大好きでノリよく明るい。面倒見の良い子だと思う。
「頑張ってね」
「はい。おやすみなさい」
夜勤に入ってると知っているからおやすみを言ってくれる長船くんに手を振って別れる。
「おやすみなさい」
ふぁああと欠伸と伸び。
「お疲れ」
「お疲れー。頑張ってね」
同僚の広前典孝とすれ違う。
「学校どう?」
「まあ。辛うじてそれなり数生き残ってるよ」
一旦、怠けるきっかけができるとずるずると出席が減るそれが定時の、多分、定時に限らず人の習性なのかなと思う。休みが続くと戻り難いから。
減る数が多いと、その傾向が強くなる。
「ミホは頑張ってるらしいし。有坂君は?」
まず、脱落しそうなのがミホと有坂君だと思う。
「頑張ってるよ。面倒くさそうだけどな」
「そっかー」
「気になるのか?」
聞かれて、ジッと視線を合わせられる。
「気にならないとは言わないけど、気になるってわけでもないな」
なぜ告白されたのかはわからない。
ミホが好きな相手だし、彼はダメだ。
そうでなくても男なんかいらない。
「まぁ、早く寝ろよ」
「んー。ヒロタカはいってらっしゃーい」
見送りの言葉をかけて思考に入る。退社時にシャワーは浴びたし、そのまま寝れる。
どうせ登校する小学生達の声でにぎやかだからすぐには寝れない。
朝ごはんと言うか、寝る前の食事は何を食べようか悩む。
「よぉ」
アパートのドアに手を掛けたタイミングで有坂君の声。
「おはよう。少し、久しぶり?」
「ああ」
避けてるつもりだから、ちょっと困る。
視線を泳がせて周囲の状況を見回す。朝の隙間時間。登校には少しだけ早く、朝の部活には少しだけ遅い。
救いはスマホの着信音だった。
「ごめん。着信。電池残量少ないし、部屋に戻んないと。じゃあ、おやすみなさい」
返事なんか待たずにドアを開けて滑り込む。
イヤホンマイクを挿し込んで通話モード。
ドアの外の音を締め出した。
「ちーちゃん、なんかあったん? 大丈夫?」
留学中の家族からの電話。それを今言い訳にしてる気がする。それでも、気がつきたくないものがあった。
『別に何もないけどさ、元気かなと思って』
ちーちゃんの声は明るくて落ち着いて聞こえる。それでも、どこか物足りない違和感があった。
「ホームシック?」
『違うって』
否定しつつ笑ってるちーちゃんの声にホッとしたのは私のほうだった。




