料理部の一幕
「きれいに出来ましたわ」
「見た目はね」
材料を整え、下準備。
粉を計ったり、混ぜたり、カットするものをカットしたり。
この時点ではミリーちゃんは優秀。
何故、結果が食用不適格なことになるのかがよくわからない。
「岡本センパイ。コレは規定通りに計量し、分割しただけで、まだ素材ですわ!混合割合も規定通りですし」
……そう。じゃあ、そのままいこう?
テーマは月末の隆維君のお誕生日狙いらしい。五月生まれだったんだ。意外と知らなかったなと思う。
「愛の隠し味を添えてお届けしたいんですの」
うっとりと両手を握り締めてスカートを揺らす。
でもね、それはいらないんじゃないかな?
その隠し味という響きがこわいよ?
早川君がおうち練習もしてみたらと提案した結果、ミリーちゃんのお兄さんが早川君に詰め寄るシーンも目撃された。
「食べない」という選択肢はないらしい。そして、不味いと伝える選択肢もないとのこと。
正直、私は器用な方じゃない。
だから自分の分に手をかけてる時は人を見てる余裕はない。
早川君もミリーちゃんの行動のなにが問題なのかわかっていない。私も、見ていたとしてもその経過がわからない。海老名先生はミリーちゃんを完全に苦手視してるし。
千佳ちゃんと千鶴ちゃんは当たり前に上手にこなすから、時々、わからないって顔で観察はしてるけど、最終『どうして?』って言いたそうな表情を晒している。
萌ちゃんと尋歌ちゃんのやわらかな誘導とツッコミの合体技で作ろうとしている物の難易度は下がっていっている。
「あ! 岡本先輩! 焦げてます!」
「えっ!?」
千佳ちゃんの声に慌て過ぎ、びくりと動いた拍子に熱を帯びた金属部分に指があたって、体がきゅっと引ける。
がしゃんとコンロの上でソースを作っていた鍋が踊り、ヘラが中身を散らしながら落下する。
ぐいっと腕を引かれた。
「かからなかった?」
からからとヘラが床の上で踊って沈黙する。
受け止めようとかしていたら火傷してたと思う。
答えようとしてスカートに湿りを感じた。熱はない。それでもスカートにべたりとソースが付着していた。エプロンではフォローできなかったらしい。普段の割烹着を忘れたばっかりに!
水が流れる蛇口の下に手を突っ込まさせられる。痛い。
「……山辺くん、ありがとう」
痛いのを抑えて救い手にお礼を言う。
「火は有坂さんたちが対処してくれてるから、大丈夫だよ」
ニコリとされてちょっと困る。
「千佳ちゃん、千鶴ちゃんありがとう」
気を紛らせるのにお礼を二人にも言っておく。
「おどかしちゃってごめんなさーい」
「ちゃんと冷やしてくださいね」
二人は片付けながらフォローしてくれる。
もう少し家事スキル上げたいなぁ。
あと、もう少し落ち着きが欲しい。というか、しっかりしたいよ。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
鹿島萌ちゃん、ちら借りしましたー




