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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
702/823

一応ね

 沈黙が微妙。

 会話の糸口が作れない。

 これは多分、お互いに。

 久しぶりに伯父さんが作ったケーキなんてものが目の前に置かれているけれど、僕もしずも手をつけてない。

 沈黙が続くだけ食べたほうがいいよなぁという義務感も失せていく感じがする。

 フッと瞬間的に意識が飛んだ感覚。済し崩しに寝ちゃおうか?

 さすがにどうか、だなぁ。意識が飛んだ誤魔化しも込みでこっちから振ってみる。

「こっちから言うことは特にないからな。距離を置きたい時だってある。いたのは事務所だし」

 向こうにいる間に発生した書類不備とかシャレになんないし。締め悪いし。

「文句あるんなら言えよ。ただ見てられるだけでもストレス感じる。……あのさ。言いたくても言えないことはさ、責められるように見られてもわかんない。だって、しずは僕に理解されたくないって思ってる。少なくとも、僕はそう感じてる」

 否定の言葉を封じる。

 傷ついた眼差しに少し心が痛い。

 ちょっと笑う。

 結局、こっちから聞いてる。一方的。

「たださぁ。それってしずだけじゃねーから。隆維たちも芹香もだからさぁ。原因僕なのかもね」

 空気読めなくてごめんって言うべき?

 しずの混乱、困惑度が上がってく。

 ああ。面白いなぁ。

「千秋」

「触んな」

 伸びてくる指先を睨む。

 びくりと震える指先。

「しょーがねぇよな。僕としずは違うんだろう?」

 双子と言っても違う個体。

 三歳ぐらいからは一緒に写った写真もあるがそれ以前は一枚もない。

 どこか根本的な思考回路が違う。同じで、あたりまえに分かり合えると考えてた僕の甘さ。理不尽を強いても受け入れる。それが一番拒絶だったんだなぁって言われて気がついた。僕には気がつけなかった。そんなこと受け入れられないから。

 今、僕にとって良くないものをしずや芹香が排斥したら、僕はきっと立てなくなるんだろうなと思う。

 外に出ることに怯えて他者が怖いという恐怖感に打ち勝てないんだとわかる。

 それを自分に許した時点で僕は僕を許せない。

 だから、伸ばそうとする手を拒絶する。

 だって、しずだって僕を理解したいわけじゃないだろう?

 僕の振る舞いくらいは流せることだから、好きにさせてるんだろう?

 区別するのはしずだろう?

 同じ位置には立てないって。

「伯父さん、帰ってきたしさ、ちゃんとむこうで勉強しようと思う。伯父さん紹介で部屋あるし、ジークも一緒でいいって話だしさ」

 唖然と驚いた表情。本気で物理的な距離ができるなんて思ってなかった?

 面白いなぁ。ぽんぽん頭を撫でてみる。

「空ねぇいるから、寂しくねぇだろ?」

 ゼリーは連れて行かないし。

 連れて行きたいけどさ。

 いなくてもさ、変わんねぇだろ?

「伯父さんがいれば、さーやちゃんがいない時とか、どっちかがいた方がいいとかの配分考えなくていいだろう?」

 いない方が空ねぇを取り上げられるとか不必要な心配せずに済むだろう?

 なんで、不安そうなの?

 空ねぇも、芹香もしずのそばの方がいいんだってことはわかってる。空ねぇはしずのために。しずは芹香のために。

 しずはちゃんとした対応ができるだろう?

 何も知らない僕とは違うから。

「空ねぇといて、幸せ?」

 コツンとおでこを合わせてみる。

 このくらいいいよな?

「壊しそうでこわいけど、空を手放したくないんだ」

 不安そうに、泣きそうに笑わないでほしい。

 なぁ。僕は罪悪感を持たなきゃいけないのか?

「手放さなきゃいい。大丈夫だって。な?」

 きりって心臓が痛い。

 嬉しそうに笑う表情が柔らかくて嬉しそうで。嬉しいんだけどさ。

 僕がいない方がしずにいいんだ。

「千秋?」

「うん?」

「一緒にいるのイヤ?」

 なに言ってんの?

 お前が僕のそばにいちゃダメになるんだよ。

「ばーか。元々、そんな近い距離感じゃないだろ?」

 トンッと突き放す。

「変わんないよ。ちゃんとしずのことは好きだしさ。芹香だって隆維たちだって好きだよ?」

 ただ、どこか繋がらない、すれ違う好きなだけ。

 なんで驚くのさ。

 おまえらが僕を相手にしないだけだろう?

『知らなくていい』『わからなくていい』『見なくていい』『手を差し伸べてなんかいらない』

 僕じゃ、ダメなんだろう?

 わかったから。

 ああ。

 これ以上はダメだ。

 ジクジクと痛い。

 痛みは一過性。

 流れて過去になる。

「離れてたってさ。兄弟で家族なのは変わんねーじゃん。隆維と涼維だってやってんだぜ?」

 茶化す。見なくていい。わからなくていいよ。しずが求めるコトを僕も求める。お前が良くて僕がダメってことはないよな?

「それとも、僕にはそーゆー生活はできないとでもいうのかよ」

 どんな生活だって、過ごしているうちに慣れるんだよ。

 ぷるぷるとしずが頭を振る。わかればいい。

「しずはうろなから出たくないんだろう?」

「ん。出かけるのはいいけど、帰ってくるのはここで、あんまり長くは出てたくない」

 ひきこもりかっつーの。

「じゃあさ。帰って来れば迎えてくれるんだろ?」

 理解できねぇの?

「行ってきますって言ったらただいまを言いに戻るのを待っててくれるんだろう?」

 嬉しそうに安心した笑顔……。

 んー?

「おい」

「ん?」

「帰って来ないって思ったのかよ!」

 笑顔で頷くな。

「兄貴も弟も妹も友達だって、この町にいるんだぞ?」

 兄弟妹(きょーだい)にはあんまり求められてるとは思わないし、高校出ちゃえば進路的にバラけるのは普通だし、あ、忘れられやすい?

「千秋。帰ってくる?」

 イヤだって言いたい。

 今だけだ。わかってる。

 此処に居たくないのは今だけだ。

 自分が今、無力で何もできないと知ったから……。

「千秋?」

 イヤだって言ったら傷つくんだろうか?

 その奥で切り捨てられていくんだろうか?

 泣きつけば、きっと、何を捨てても守ってくれるんだろうと知ってる。

 何も見なくていいと守ってくれるんだろうと知ってる。

 でも、それは選んではいけないんだ。

 きっと、僕は自分を許せなくなるから。

 その選択をさせたしずを許せなくなるから。


「帰ってくるよ」


 しずがホッとした表情で笑う。

 いたい。

 ココに、居たくない。

「ちゃんと夏と冬と春は帰ってくるって。今年はアレだったけど、次の春なんか隆維の卒入学だろ?」

 やっぱりそこは祝うべきだろ。

 体調崩して受験失敗残念会だって有り得るだろうし。

 しずが笑ってるのがドコかが違う。

 笑顔の質が違う。

「体調かぁ」

「そうそう。気をつけてやれよ?」

「んー」

 手が伸びてくる。

「ウザい」

 払う。

 傷つけたとわかる表情。暗い喜び。しずに何か残せる?

「心配しないで、しずは自分が何をしたいか、考えろよ。僕は僕でしたい事を見つけていく。空ねぇと居るためにどう在りたいのさ」

 きょとんとするな。

「収入を得る方法を考えとけって言ってんの!」

 誰かと寄り添って生きていきたいなら必須だろうが!

 おおって手を打つな。

 ちゃんと教わっとけ。恭君にでも。

 おかしいなぁ。

 バカバカしいなぁ。

 だって、僕の言葉はとても軽く流れてくのに。

 しずが幸せそうに嬉しそうに笑うのを見れるのは嬉しいんだ。

 そこに僕がいちゃダメにするんだ。

「ばかじゃねぇ?」

 僕が。

「ひでぇ」

 酷いのはしずだよ。

「空ねぇ困らせたいの?」

 しずがぶんぶんと勢いよく首を横に振る。

「困らせちゃダメだよ」

 僕はうんうんと頷く。

 しずが息を吐いてだよなぁ〜と天井を仰ぐ。

 サクッとフォークがケーキを切り分ける音。

 気をつけてるつもりなんだけど、と流れる惚気以外のなんでもない話題。

 甘く幸せそうな声。

「ハイハイ。ごちそうさま。ちょっと照れ恥ずかしいから風にあたってくるよ」

 しずが幸せそうに笑っていることは嬉しいんだ。

 僕じゃそれは引き出せなかったから。


 ああ。


 やっぱり今は会うべきじゃなかったんだ。

 辛いんじゃない。ただ、少し痛いんだ。

 しかも、実際に痛いわけじゃなくて感じてる気になってるだけ。

「ばっかばかしーの」

 吐き出して夜風に吹かれる。ついでに背後に感じた気配に振り返る。

「隆維?」

 風邪ひくぞと言えば大丈夫と根拠なく笑う。

「ああ。そうだな」

 肯定すると隆維の動きがぴたりと止まった。

「千秋兄?」

 不思議そうな眼差し。

「どうした?」

「いつもみたく小煩く言われると思ってた」

 こうるさい……。

「言ったって聞かないだろ?」

「きーてるって」

 音は拾ってるんだろう?

 小煩く。

「きーてるってば。千秋兄が俺らを肯定してくれることは普通だし、あたりまえだって思ってるから、違う反応されると不安になるだろー」

 うわっ恥ずかし。とか言ってくしゃみひとつ。

 ほら、体調崩すぞと風のない場所へうながす。

「帰ってくる?」

「家はここだよ」

 僕の家は、兄弟で過ごすこのウチなんだ。

 ちゃんとわかってる。

 おまえら、そんなに僕が帰って来ないように見えるのか。



『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

空ちゃん、話題にお借りしております。

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