休日の午後
「部員キープ!」
「おめでとう。先輩として指導していくんだね」
歓喜の声は宗によって鎮火された。
「指導?」
作れんのはサラダとか冷奴とかだ!
言ったら、それなら僕もできそうと言い出しそうな宗がいる。具材切るより指切りそうだから包丁握らないでと千秋さんに懇願されてたくせに生意気だろう。ハイって調理バサミ渡されてたろうが。もしくは皮むき要員。
「宗くん、晩ごはんリクエストあるぅ?」
階下から母さんの弾んだ声。
「何をいただいても美味しいです。でも、ご迷惑でなければ、先日の人参グラッセが美味しかったです」
ちょっ人参好きじゃねぇんだけど!?
母さんが「任せてー」とか弾んだ声で買い物に出てしまう。
恨みがましい目で見ていると宗は満足そうに頷いている。
「人参グラッセ」
そんなに野菜が好きか。なぜ、肉を言わん。それでも男か。とか言いたくなるが、言えない現実。
「英は進路どうするの?」
「んー。興味のある業種がないんだよなぁ。親父の跡を継ぐなんて考えてないし」
「そうなんだ」
頷きつつ、本当にどうしようかと思う。
「宗は?」
「こないだバイトでさ、キグルミの中の人をやってみて、かなり楽しかった」
なんだかんだ言ってはじめるとノリよく役に入り込むもんなぁ。宗は。
「特撮の怪人でもやってみたのかぁ」
「うん。そんな感じ。ちゃんとスクールも行ってみようかと思ってるし。でもこれと大学は別だしね。学歴は今んとこキープしたいなぁって思ってる」
コレでもそれなりに先を見てるんだなぁって思う。
「進学先は」
「鎮先輩と同じとこかな」
ああ。やっぱりなと思う。このストーカーが。
「恭兄さんは千秋先輩のルートに近いコースとるって言ってたしね」
「ふぅん」
「ネット授業でこなせる単位はとってからがっつり留学するって言ってた」
少し寂しそうだ。かなりブラコンぽいもんなぁ。宗。
夏祭りでちらっと見かけた気はしたけど、日生兄弟が『早川英』とはバレないようにしてろって妙な忠告をしてきたんだよなぁ。上下とも。
従ったけど、アレはなんだったんだろう。
どっかの部活の練習試合に他校から来た生徒が宗に声をかけていた。
小学校時代の友人だとか。
別れ際に「兄貴には気をつけろ」とかやっぱり忠告をくれた。
「宗のさ。兄貴ってどういう人?」
「んー。基本、敵わない人かなぁ。いっつも僕が迷惑かけてる感じ。うまくできないこともフォローしてくれるんだ」
尊敬とか憧れとかを強く感じる。
兄貴ってそんなもんか?
兄弟のいない俺が思い浮かべる兄貴ってなると高原兄弟や、日生兄弟、頼りなさ半端ないけど逸美にーちゃんとなる。
純粋に憧れたり尊敬するにはクセが強すぎる。
同じ年齢の兄にそこまで盲信できるのは凄いなと思う。
カッコいい、凄いとは思うけど、直樹にーちゃんはまず年の差ありすぎてちょっと怖いし、直澄にーちゃんはやんちゃ感で振り回される印象が勝つし、そこが愛嬌つーか親しみ?
あ、直樹にーちゃんに関しては親しみは難しいっ。
叱られる印象きつすぎっ。困ったら助けてくれるとは思うけどさ。
日生兄弟はまぁ、基本的には優しい。で、いじめっ子気質が強いのは千秋さんで鎮さんの方は来るもの拒まず、去る者追わずでちょい気難しい。二人とも笑顔に騙されると酷い目に合うと思う。
ああ、表面に騙されちゃいけない見本だと思う。
え? 誰がって全員だよ。
「あれ? 声出てたか?」
「うん」
「うわっ! 宗、内緒な! 内緒」
わかったと頷く宗、お前も見ために騙されちゃダメな一人だよなと思う。
「人なんて人の一面しか見れないものだから、どう見るかだよね」
「うわっ、難しいこと言う」
新入部員はかわいい女子三人。
見た目で判断する気はないけど、女の子は可愛いからいいよなぁ。
でも、男子は、やっぱり入ってこないよなぁ。
寂しい。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
『うろな担当見習いの覚え書き』
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『うろな2代目業務日誌』
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高原兄弟(直樹さん・直澄君)話題でお借りしております




