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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2015年春
696/823

ご挨拶に行ってみた。

「こんにちは」

「いらっしゃい。今は閉ざしてるフロアも多いからさー、案内してあげる」

 ふわんと揺れる淡い茶髪と無邪気そうな笑顔と仕草は印象をやわらかく幼く見せる。

 ただ、その青い目は明らかに笑ってはいなかったけど。


 そこは水底を意識させる青いフロア。

 床は濃紺。照明は薄暗い蒼。勧められるベンチは白いボックス状。

「なんでさー、逃げたの? 涼維、あんたのしたことにまだ気がついてないんだからさー、逆に記憶に残るような真似しないでほしかったなー」

 次期当主はにこにこ笑って聞いてくる。

 内容は笑顔に似合わずきつい。

「なんで、ミリセント見逃したの?」

 オレは軽くとは言え、現当主(ラフ)からの注意は受けたが妹のそれはノータッチだ。妹は自省するタイプでもない。それはある意味周知のことだ。

 それでも注意を受けずに済んでいるのは、被害者が訴えていないからだと思う。イヤ、被害者にはオレも訴えられてないけどね。詫びは入れられたけど。

「質問に質問って立場かなー?」

 不満そうだけど、多分それほど感情は動いていない。

「反発は想定内だしー。ただ、涼維にいったのはヤだけどさ」

 飲む? と差し出されたオレンジジュースを受け取る。

「想定内?」

「当たり前だろ? ある程度の家柄、歴史を誇るような家で、親族もいるのに血の繋がらない、ラフ本人の隠し子でもないどこかの私生児の息子が家を乗っ取るって言うんだからさ、反発は当然だろ? しかも、養子ですらない」

 兄ならわかってるなら弁えて自ら放棄しろと詰め寄っただろうなと思う。

「ただ単にさ、うちの父親がラフの命を狙ったあんたたちの誰かの魔手からラフを救って、ラフはその感謝と罪悪感を俺たちに向けてただけだったんだよ。あんたたちの誰かがあえて俺たちを排除しようとしなければさ」

 まるで最初は跡継ぎ候補ではなかったのだと言わんばかりの発言。

 子供の誘拐に紛らせた事件だったと聞いている。話題ではどこの家が仕掛けたのか探りあっていた。

 妹についているメイドの弟もその件で死亡している。

「俺たちは傷ひとつなく助かって、たくさん、その外で死んだよ。その家族の生活の保障はラフが出来ても心のケアは出来ないんだ。失ったものは還らないから」

 泣いて、恨んでた。その姿を覚えている。

 恨んではいけないと言いつつも生き残ったのがあの子達で自分の弟は死んだ。その思いは複雑なのだと次期当主を恨んでいる。逆恨みでも、恨まずにいられないと。ウチに来てしばらく陰鬱だったメイドを突いたら吐き出した。

「だからさ。俺はさ、見える場所で、できるだけ真っ直ぐに立ってなきゃいけない。誰かの代わりにはなれない。でも、不満や恨みをちゃんと受け止められる人間になる努力と背伸びは必要だって知ってる。失われたのは俺たちのせいじゃないけど、確かに俺たちがそこにいなければ、失われなかった可能性も高いから」

 使用人の子供だ。現場には身内に売られた子供も集められてたと聞いた。本当なら無関心でも問題ないだろう。

 警備員は二人射殺され、乳母を務めていたメイドも刺し殺されていたという。自分たちのトラウマで溺れていても強くは責めれないだろう。

 だから、本家の使用人は一度総入れ替えされている。心のケアと不当な八つ当たりをして双子を傷つけないようにと。

 譲らないという決意なのかとも思う。

 つまり攻撃したのは早合点した外野で、現当主を狙った連中。その結果、喧嘩は見事にお買い上げ。なんて自業自得。

「真っ直ぐに立って見せたいんなら寄り添うのにうちの妹はお買い得だよ」

 気がついたら楽しくて、妹を次期当主にすすめてた。

「可愛いとは思うんだけどさ。俺、先に決めた相手いるし。約束してるからさー」

 そーだろう。うちの妹は美人だし、頭はいいし、ちょっと常識と良識が抜けてるとこがかわいーんだ。

「愛人でもいいんじゃないか?」

 提案すれば次期当主は笑う。

「どっちを?」

 少し悩む。

 ロマンスはみんな好きだ。設定によってはとても歓迎される。

 愛のない。二番手の正妻の位置を妹が甘んじるとは思えないし、親族も反発を強める。

 ああ。見えた答えはきっと妹に残念だ。

「ミリセントだなぁ」

「ちょっ! 兄貴の台詞かよ!」

 次期当主は楽しそうに笑いころげた。




「ミリセントに愛人としてでも期待させてくれるのか?」

 オレの言葉に視線を返してくる。

 妹は次期当主に本気だ。そばに居られるなら順番を重視はしないだろう。なら、可愛い妹のために尽力しておこうと兄の考えを働かせる。

「あの子はさ、結構ジェラシー強い方でさ、こればっかりは俺だけじゃ答えられねーよ」

 次期当主の答えは微妙だった。

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