妹から見た兄。
一緒に来日した兄は一番歳が近い。
兄弟の中では勉強もスポーツも平均点で特徴がない。人をたらし込める才能だって特にはない。特に突出した部分のない兄だ。
上の兄達や親族たちが現当主であるラフが指名した双子。リューイ様とリョーイ。これに反発した。
第一位はリューイ様とはいえ、リョーイも邪魔で、かつリューイ様への揺さぶりも兼ねて機会があれば、排除しろと言う揺さぶり。
兄は同じ学園にいるなら。
私はちょうど体調を崩して検査入院中で様子がみれるなら。
それぞれにエサをちらつかされて動いた。
兄はスポーツ中に怪我をさせたり、嫌な思いをさせようとして、自分が重症ゾーンに入って助けられるというヘマっぷり。それでも完治三ヶ月。
善行も悪行もパッとしない兄である。
完璧を望まれて、それを目指した長兄には程遠く、それを補う次兄にも及ばず、だらしなく悪戯好きな三の兄のようにもなれない。
それがこの兄だ。生きてて何が楽しいのかと思う。
兄の人生。光の当たる場所には行けないだろうと思うから。
一番手にはまず無理。二番手三番手となることもなく、奇跡の好成績で五番か六番がせいぜい。いっそ最下位にでもなれば注目も浴びるだろうに。
家族の中ではただひたすらに影が薄い。期待もされてない。
「ほらできた。ロープ編み、サイドな。緩めにしてあるから印象も柔らかく、なるだろう。たぶん」
確かに邪魔ではない髪型だ。
兄の選んだ服はどこか直線的。緩やかな甘さは少ない。紺のタイトロングにオフホワイトのシャツにスカートと同色のベストとジャケット。
スカートには深めスリット。
コレが兄のタイプなのかと思う。
メイドのマリージアが笑う。
「あの方にはあの方なりの魅力があるのですよ」
そう言われてもちっともわからない。
私は本当はどうでもよかった。
本家の当主なんて誰がなっても私に影響があるとは思えなかった。
病室で眠るあの子はまだ小さく見えて年下だと意識した。
男の子の成長期はこれからだもの。
点滴の針を抜いた。
痛みからか海を思わせる青い目が開かれて、私を映した。
それが出会い。
その時私は責められることはなかった。ただ、リューイ様は誰がやったか確認できてればいいようだった。
次に会った時に名前で呼ばれた。屈託のない。いや見えない笑顔で、リョーイに仕掛けたことは気に入らないと告げられる。
私といるのに他の話題。カッとして突き飛ばした。場所は階段。咄嗟に手を出して私もバランスを崩す。
数日後の私の謝罪に彼は笑ってたいした事じゃないと言う。
だから、私は提案した。
自分が自分の家族に溺愛されているのを自覚していたから。
「私と結婚すべきだわ」
私は彼を、リューイ様を見ていたい。
側にいたい。そう思った。その青い視界に映っていたいと思ったの。
理由なんかわからない。誰かに注目されるのなんて面倒くさいと思ってた。
でも、彼に注目してほしいと思うのだ。
ねぇ。
私を見て。
私を好きになって。
貴方にだけ、注目されたいって思ったわ。
お兄様たちに見られているのは煩わしいだけなのに。
私は知らない。
リューイ様が何を好まれるのかを。
それでも、私を見てくれる眼差しに好意がないかと言えばそうでもなくて、わずかな仕草からその要望を拾いたい。
「他に相手いるんだろう?」
兄が水を差します。
「家柄が低い方が愛人になればいいんですわ。私、結婚まではいくら遊び相手がいても気にしませんわ。殿方の甲斐性でしょう? 本能かしら?」
びくりと兄がひるむ。
兄の許嫁は嫉妬深いから浮気なんて許さないだろう。
そして、挙式のその日まで一線を越えることも許さないだろう。そこは正しい。
結婚すれば、遊び相手とは手を切って、愛人は二人までなら受け入れられる。ただ、相手が自分を弁えるならとなる。
そのくらいを制御できる懐の深さをリューイ様には発揮してほしいと希望してしまう。
もちろん、そのためなら協力は惜しまないの。
「リューイ様カッコいい」




