兄から見た妹。
「ミリセント。何を考えているんだ?」
兄として問う。
「リューイ様カッコいい」
絶句する。妹はふわりふわりとワンピースを揺らし、じっと鏡に見入ってる。
柔らかな少女らしいデザインの衣装は来日前に揃えさせた人気のブランド系。
「似合わないかしら」
本人の眼差しはキツめだ。ふわりとしたものより、シャープなデザインの方がいいと助言する。別に似合わないってほどでもないけど。
でなきゃ、フェミニンを着こなせる表情を身につけるべきだ。
「お兄さま」
「ん?」
「柔らかな表情って、どこに売ってますの?」
……売ってないよ。
付添いとしてついてきたメイドがお茶を淹れている。
妹は気難しく我が儘だ。男四人の後に生まれた一人娘として甘やかされているせいで。
メイドはそんな甘やかされた妹がそばに置いてもいいと唯一認めた護衛兼雑用担当者だ。
「柔らかな、素敵だなと思える表情をなさる方を観察なされば如何です? 模倣するのではなく、その方の良いなと思えるところで取り込めるものがあれば良いのではないでしょうか?」
メイドの言葉に妹は黒髪を揺らす。
「利益はあるのかしら?」
妹よ。損得でやるやらないを決めるのか? そんなものか。
「少なくとも対人技能は上がりますので、リューイ様のサポート等にも有益かと」
「……そうね。観察は大事ね。でも対象になるような方をまだ知りませんわね」
やるのか。妹。
「出会いはこれからです。お嬢様」
「そうね。頑張るわね」
妙なやる気に打ち震える妹とそれを応援するメイドを見守る。
なにはなくとも日本での生活をただただ平和にやり過ごしたく思う。
一応、次期当主に挨拶行った方が良いんだろうなぁ。
ああ。
憂鬱だ。行きたくない。放置したい。
「お兄さまはお友だちできそうですの?」
いきなり振られた妹の言葉に意外性を感じる。
「ラフのトコの秘書と同じファミリーネームのクラスメートがいたかなぁ」
今まで妹に対人関係で心配されたことはあっただろうか? ありはしない。
「ところでどうして彼を推す気になったんだい?」
「お兄さま方よりタイプだっただけです」
それだけでもないだろうに妹はそれ以上答える気がなさそうだった。心配されて嬉しかったし、ひとつ助言を。
「男を落とすなら胃袋を掴むのは基本だろう?」
「料理! 実験と変わらないでしょうし。リューイ様に食べていただけるものを自作。素敵ね!」
オレの提案にぱぁあっと妹がはしゃぐ。
しかし、妹よ。実験と料理は違うと思うぞ?
メイドがにこりと笑っている。
「料理部があるそうですわ。活動は活発だと聞いてます。如何でしょうか?」
学校には行けないメイドよ。よく調べてあるな。そして、意識修正はしないんだな?
「そうね。良い出会いがあるかもですものね」
妹とメイドが楽しげだった。
妹。オレの交友関係興味ないね?
「お嬢様が料理と反応してくださって安堵いたしました」
「え?」
「胃袋を掴むと言われて、「物理で?」と返ってこなかっただけよしかと」
「ひぃ!」




