新学年
予習のノートを閉じて深呼吸。
二階におりれば宇美さんが晩ごはんの準備中。
「不安?」
笑顔で聞かれて私は首を横にふる。
「だって中学校からそのまま上がる人も多いし、大丈夫だと思う」
外部からの人も一人もう知ってる人がいるんだし。
「お友達、たくさんできるといいわね」
新しい時間が楽しみで取り澄まそうと思うのに表情が緩む。
「うん!」
返事をして、照れくさくなって、私はにゃんこたちのごはん準備を宇美さんから奪い取る。
「あら、ありがと」
◇◆◇
叔父さんは書類チェックがあるからって出勤中。仕事がはじまるとすれ違う生活になる二人。僕がどういう立ち位置になるのか理解できるまで少しかかるんだろうなと思うと、ドキドキと楽しみ。
仕事から帰ってきた叔母さんを玄関まで迎えに行く。
「叔母さん、お帰りなさい。お風呂も入れますし、ごはんもおかずを温めれば食べれますよ?」
ビールは叔父さんが買ってきて冷蔵庫に入れてたはずだ。
ボーっとした叔母さんの反応に何か失敗したかと心配になる。
「キッチン、勝手にいじっちゃダメでしたか?」
黙って鞄を置いた叔母さんがぎゅうっと抱きついてきた。
「亨君。天使!」
さっとお風呂に入ってきた叔母さんとの食事中の話題はもうじきはじまる高校生活。
「素敵な出会いがたくさんあるといいわね」
叔母さんの言葉に嬉しくなる。
「はい」
学生時代の生涯の宝物だと父様も言ってました。
◇◆◇
じっと見つめる先は妹。
夏を過ぎたあたりからの妹の奇行。もちろん妹の行動はいつだって奇行ではある。
うろな高校とやらの制服に身を包み、姿見の前で少女らしく髪形に悩んでいる姿など、実に気色悪い。
確かにオレもうろな高校の真新しい制服に袖を通して合わせてみたが。
妹はいきなり日本語を学び始め、それは療養中だったオレも巻き込まれた。
実際通ってた学校には気まずくて戻り難い。妹と共に日本留学はいい機会だったとは思う。
「ああ。リューイ様」
妹が、ロクでもない名前を夢見るように呟いた。
背中を脂汗が伝う。
一族外の人間でありながら、現当主が跡継ぎに指名した人間の名前だ。
オレが学校に居辛くなったのはその片割れに対して嫌がらせをしようとした結果、こっちが重傷を負ったせいだ。当然、いい印象はない。たとえ自業自得だとしても。
妹なんかはその名前の対象に直接嫌がらせにおよんだはずだ。嫌がらせを超えて傷害というか、殺人未遂クラスだった言う話だった気もする。
それなのに襲撃に失敗して堕ちる始末。奇行まみれの妹だ。実は御せる相手を賞賛すべきなのかとも悩まなくもないが、感情がソレを許さない。
いや、でも嫁げば実質うちが実権握れるようになるのか?
妹に限って他の嫁ぎ先なんぞ夢のまた夢だからな。
「おにいさま?」
妹のまなざしは冷たい。
「なんだ?」
「何を無駄なことを考えてらしたの? おにいさまはおつむが軽いんですからわたくしのことは気になさらないでくださいね」
できれば気にしたくなどない! 切実に!
◇◆◇
「隆維と碧ちゃんは進路決めてるのか?」
しーちゃんが聞いてくる。しーちゃんは進学うまくいったし、俺と隆維は高校受験が始まる。
「うろ高。近いし、ランク的にも問題ない」
「俺も同じく」
俺の場合、学費の気兼ねもあるから落ちたら定時で昼間は仕事を探すつもりだった。
「そっかー。今年の目標は隆維は出席率上げることだよな」
「まっねー」
りゅーちゃんは気楽に答える。
「一緒に登校だよねー」
ミラちゃんが嬉しそうに笑う。
「おーう」
会話はゲーム部屋でネトゲをやりながらだった。
「宿題、大丈夫か?」
りゅーちゃんはバカにしたように鼻でせせら笑う。終ってるに決まってるじゃんという空気がありありだ。もちろん、提出物は早期完成が理想な俺も問題ない。
「そっか。じゃ、早めに寝ろよ?」
「はーい」
俺とりゅーちゃん、ミラちゃんが揃って返事をした。




