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URONA・あ・らかると  作者: とにあ
2014年〜2015年冬
686/823

新年度を前に

「おめでとう。尋歌」

 うろ高の制服に身を包み、鏡の前に立つ。

 まだこなれてない制服。きっと制服に着られている感じだろう。袖やところどころがぶかつくのは成長への期待値。もう少し詰めた方がいいんじゃあというのぶくんの意見は聞きたくなかった。

 大おじいちゃんが似合う似合うと褒めてくれる。

 のぶくんが宇美さんと結婚したから院長職を譲り、旅行プランを立てたりしていて楽しそう。

 プランのない時は手伝うと笑っている。

 今は卒入学に合わせてお祝いの為に居てくれている。

 日生の兄弟が卒入学だというのもあるらしいから、来年もまたこの時期はいるんだろうなと思う。

 新しい制服。三年間。目指すはところはある。

 鏡の前でひとしきり気合いを入れて制服をハンガーにかける。まだ三月。普段着に着替えて二階に下りる。

 戸津アニマルクリニックは二階から上はにゃんこパラダイスだ。

『踏む気か?』

 そう言い出しそうな猫が階段途中で寝そべっている。その前足の間には仔猫が寝ている。

 前は下りることができなくて困った。今は?

 そっと手すりを握り、下までの残数を確認。

 軽く足首を回してからポンと跳ぶ。

 ぎゅっと手すりを掴んでそれ以上落ちないように調整。着地成功。

 振り返れば、寝そべる猫は大欠伸。

 生意気なさまにムカつくけど、同時に可愛くて仕方ない。

「散歩から帰ってきたらブラッシングするからね!」

「散歩? いってらっしゃい」

 宇美さんが笑う。

「行ってきます」

 春は薄曇りの日も多いし、花粉警報を告げる天気予報も多いと歌う。幸いにも花粉症にはまだ無縁。

 こないだまで気配なく枯れ木のように擬態していた桜の木々がちらほらとほころびはじめている。

 桜が咲いていく。

 なんだか嬉しい。

「あ! ヒロちゃんヒロちゃん」

 声をかけてきたのは鈴木雑貨の麻衣子さん。

「部活決めた?」

「まだ、です。というか、入学式もまだですよね?」

 現在三月末です。

「やりたい部活のメドはあるのかなーと思ってね」

 ないですよと返せば、ぱぁっと笑う。

「兼任でもいいから、料理部。料理部をよろしく!」

「麻衣子ちゃん、尋歌さん、驚いてるから」

「だって、愛子、あいつら頼りないじゃん! それにヒロちゃんがいたらさ来年、部員がついてくるんだよ? 来年は隆維を引きずり込めばいいし、さ来年は縁故で千歳ちゃんを引きずり込むのよ」

 はい?

 すごい予定……。

「麻衣子ちゃん、引きずりってすげー発言」

「あ! 鎮! だって部員がいなくて廃部とか嫌じゃない」

 背後からの声に振り向けば鎮さん。後ろに小柄な男の子を連れている。身長低めの私とあんまり変わらなさそうだけど、男の子ってここから伸びるのよね。不躾になった視線にも彼は気にしたふうなく、にこりと静かに笑った。

「うろ高おめでとう。尋歌ちゃん」

「ありがとうございます」

 鎮さんがお祝いの言葉をくれて状況を変えてくれる。コレで話の流れが変わる。

こう君、この子は鴫野尋歌ちゃん、亨君と同じ学年になるんだよー」

「はじめまして。風峰亨です。よろしく」

 私も挨拶をして頭を下げる。

 小さい仲間だと思ってしまった。

「亨君は、部活決めてるの!?」

「麻衣子ちゃん! ごめんなさいね。うろなとうろ高へようこそ。私達は卒業生だけどね。私は村瀬愛子、商店街の和菓子屋に住んでるの。この子は鈴木麻衣子。鈴木雑貨のお嬢さん。んー。男の子が好みそうな物はあんまりおいてないよね?」

「そんなことより部活〜」

 流そうとしたふうの愛子さんの努力は無に帰した。料理部廃部の危機にはまだ余裕がありそうなのに。

「風峰亨です。よろしくお願いします。部活は剣道部をまず考えてます。うろな高校は中学、高校共に良い教えを請けれると聞いていて、高校からとは言え、楽しみなんです」

 それから、少し照れたように他の部活も見てから決めるつもりです。と付け足していた。

 コレはたぶん、料理部に望みはない。

「そうね。剣道部は有名ね。中学の旧姓梅原先生がきっちり鍛えた生徒の多くがうろ高へ上がったからじゃないかと評判なの。去年は中学で部長だった子が上がったんだけど、残念ながら続けられなくなっちゃったのよねぇ」

「いや、あの子本番弱いから」

「麻衣子ちゃん、そんなこと言わないの」

 愛子さんは麻衣子さんの言葉に注意をしてから風峰くんに向けて言葉を続ける。

「そうでなくても、この町にはいい指導をしてくれる先生が多いから学校だけじゃなくて町も歩いてみてね」

「はい。ありがとうございます。先輩」

「どういたしまして。風峰くんにとっていい高校生活になるといいわね」

 なんだかキラキラにこにこな会話。

 ふっと横を見ると、鎮さんが麻衣子さんに頭を捕まえられていた。

「アレ、あの子、素?」

「たぶん」

 麻衣子さんによる尋問のようだった。一応の小声。

「くっ。アワナイ。私にはあの空気がアワナイわ」

「愛子ちゃんとは仲良くできてるのに?」

「あの子はアレでレッサーパンダよ」

「その心は?」

「お腹は黒いのよ!」

「麻衣子、ちゃん……?」

「ひぃっ。ぁあ、愛子のことじゃないからね!」

 麻衣子さん、語るに落ちてる。あと途中から声が抑えられていない……。

「麻衣子ちゃん」

「なによ鎮」

「早川君と栞ちゃんの手腕に期待して流れに身を任せようよ」

 鎮さんが麻衣子さんの手を取ってしみじみと言い聞かせる。

「なっ、なによー! 部外者だったのにー! 部員に誘ってもならなかったくせにー」

 きーっと怒る麻衣子さん。それを苦笑しながら愛子さんが見守る。

「仲がいいんですね」

 のんびりと風峰君が呟いた。彼を見るとにこりと笑顔が向けられた。



「いい町みたいでちょっと安心してます」



『人間どもに不幸を!』

http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/

『アクセル!-新人アイドル奮闘記!‐』

http://book1.adouzi.eu.org/n6038cb/


より

阿佐ヶ谷修也くん


『うろな担当見習いの覚え書き』

http://book1.adouzi.eu.org/n0755bz/

『うろな2代目業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n0460cb/ 


『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

より旧姓梅原先生


話題にお借りいたしました

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